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2007年08月24日(金)
『セカンドライフ』が面白くない理由

『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』(ひろゆき(西村博之)著・扶桑社新書)より。

【2007年に入り、多くのマスメディアを沸かせているインターネット上の3D仮想現実空間『セカンドライフ』。つまらないだろうと思い、最初は触ってもみなかったのですが、それで否定するのも問題があります。そこで、実際に動かしてみたところ、やはり、つまらないという結果に落ち着きました。
 その理由の根幹にあるのが、基本的にお金がないと面白くないというシステムです。物を売買し、自分を着飾ったり、家を作り上げたりするゲームなので、何するにせよお金を払えとしか言われない。お金を支払わないでできることはチャットくらいという、商行為がゲームのすべてなのです。ゲーム内で楽しむためにお金を支払えと言われて、支払う人がどのくらいいるのでしょうか? お金を支払ってまでセカンドライフの中で楽しまなくても、現実に楽しいことは、たくさんあります。
 セカンドライフ内に知り合いが大量にいて、チャットをすれば面白いかもしれない、とも考えましたが、セカンドライフでは一つの空間(ISIM)にユーザーが約50人しか入れないという制限がある。これだけマスメディアがセカンドライフを報じているにもかかわらず、なぜか、この事実にあまり触れません。
 以前、セカンドライフ内で、U2がライブを行ったのですが、やはり50人ずつの入れ替え制。新車の広告を出したとしても、頑張っても約50人しか見られない状態なのです。
 セカンドライフに広告価値があると、多くの企業が参入をもくろんでいるようですが、1回あたり約50人しか見られないようなものに、企業がいくらの広告費をかけるのでしょうか? 計算すれば広告費が出るはずもない現実があるのです。
 日本人ユーザーを考えてみても、企業が広告費を出せるはずがないことは見えています。セカンドライフの登録ユーザー数は、2007年4月中旬の時点で、全世界で650万人ほどですが、日本人の登録者数が約1万人。そのうち、セカンドライフを使っている日本人ユーザーは、ほとんど全員入っているであろうSNSの登録者数が2000〜3000人ぐらいであることから、多くても3000人程度だということが見えてくる。これは、小規模なチャットスペースとそんなにユーザー数も変わらない。
 企業がマーケティングと言いながら、セカンドライフ内で3Dのモーフィングされた製品などを見せていますが、そのことでユーザーが心惹かれ、本当に商品を買う気持ちになるかも微妙です。車がCGで見られ、パソコンの中で運転できたとしても、買う人は少ないでしょう。今、セカンドライフに企業が広告を出しているのは、それだけでプレスリリースが打て、マスメディアに取り上げてもらえる可能性もあるというレベルの話です。
 このほかに企業がセカンドライフに進出しようとする背景には、製品を3DのCGで見せることができ、誰にでも理解しやすい、ということもあるようです。確かにミクシィでコミュニティを作りマーケティングを行うよりも、”自動販売機に車が!”という驚きとともに製品を見せることのほうが、インターネットを理解していないお年寄りの偉い人などへの説明は、簡単なのかもしれません。
 そういったことを狙ってか、コンサルタント会社には、大企業からのセカンドライフに関する引き合いが多いという話も耳にします。しかし、セカンドライフ内で広告を出すためには、建物などを作るためのモデリングツールのデザイナーが必要。そのデザイナーが日本には少なく、コンサルタント会社は仕事が受けられないというジレンマもあるのだとか。『デジタルハリウッド』がデザイナーの養成講座を行っていますが、まだ完全日本語化される前で会員数も少ないにもかかわらず、大々的にこのような講座が行われている。セカンドライフバブルなのです。】

参考リンク:業界人が告白〜Second Life「企業が続々参入」の舞台裏〜 ITmedia News

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 参考リンクのほうも、ぜひ御参照ください。

 最近話題の『セカンドライフ』、僕も少しだけやってみたことがあるのですが、正直「何が面白いのか、よくわからない」という感じでした。そのときには、「まあ、オンラインゲームとかも苦手だったしな」とか、「もう少し賑わってきたら楽しくなるのかもな」とも思ったんですけどね。「一つの空間に50人しか同時にいられない」というのはかなり興ざめな仕様なのですが、それは今後の技術的な進歩があれば、克服できない問題点ではないでしょうし。

 しかしながら、このひろゆき氏の言葉を読んでみると、『セカンドライフ』の(少なくとも日本での)将来性には、大きな疑問を感じてしまうのも事実です。要するに、今の『セカンドライフ』というのは、「モノを売りたい人だけが大勢集まっているフリーマーケット」みたいなものなんですよね。いくら店が立ち並んでいても、「お客」がいなければマーケットは成り立たないはずなのに。
 「セカンドライフで一攫千金!」なんていうのが話題になっているようなのですが、結局のところ、それは稀有な成功例が大きく取り上げられているだけで、「実体の無いものにお金を使わされるだけの存在」であるにもかかわらず、『セカンドライフ』の一般消費者であることに耐えられるユーザーというのは、そんなに多くはないはずです。
 現実でもそんなに生活に余裕があるわけでもないのに、というのが多くのユーザーの本音なのではないでしょうか。

 参考リンクによると、【総登録アバター数は、8月21日時点で約900万に上るが、米Linden Labの発表(Excelファイル)によるとアクティブアバターは49万(7月時点、当時の登録ユーザーは773万、アクティブ率約6%)で、うち日本人は2万7000に過ぎない。】のだとか。
 最近メディアで大きく取り上げられていることもあり、ひろゆき氏が書かれている4月中旬の時点よりも、かなりユーザーが増えてきてはいるようですが、まだまだ「現時点での広告としての効果」はたかがしれたもの、と言わざるをえないでしょう。

 しかしながら、
【「経済紙でも話題の新しい手法」というだけでコンセンサスを得やすく、広告予算を通しやすい。新しいことにチャレンジすれば先進的な企業というイメージもアピールできるし、メディアに報道されればパブリシティ効果も期待できる。】
【Second Lifeに1つのSIMを作成する際の予算は1000万円前後といい、「Flashばりばりの本格的なプロモーションサイト10ページ分程度」。どうせ効果が分からないなら、プロモーションサイトという旧来の手段より、新しいことにチャレンジしたいというのが宣伝担当者の人情だ。】

というような話を読んでみると(いずれも「参考リンク」の記述より)、大企業にとっては、『セカンドライフ』に1つSIMを作るくらいのお金は、「ダメモトの実験的な広告費」くらいの額でしかないようです。「こんなにも大企業が参入!」って言うけれど、それは裏を返せば、「現時点では余裕がある大企業の『道楽』レベルの評価でしかない」とも考えられるのです。

 以前こちらで紹介したのですが、【『CanCam』にカラー1ページの広告を出すと、広告料は240万円。見開きだと500万円近く。『モノ・マガジン』(月刊誌)がカラー1ページ140万円で、『週刊ファミ通』は、カラー1ページが110万円】だそうですから、一度作ってしまえばランニングコストはそんなにかからないであろう『セカンドライフ』への1000万円の「投資」は、けっして「割高」ではないのです。その場で商品が売れなかったとしても、「○○は『セカンドライフ』にすでに進出!」なんてメディアで何度か取り上げられれば、十分に元は取れるでしょうし、「将来の新しい広告への先行投資」としても、無駄にはならないはずです。

 まあ、正直なところ、盛り上がっているのは広告代理店と企業とメディアだけで、ユーザーは置き去りにされているというのが、いまの『セカンドライフ』の現状のような気はするんですけどね。

 そもそも、お金がないと楽しめない、「あまりに現実に近すぎる『第2の人生』」に、本当に存在意義があるのでしょうか?