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2007年06月16日(土) ■ |
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爆笑問題が「テレビには出られないアングラ芸人」だった頃 |
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『hon-nin・vol.01』(太田出版)より。
(「『テレビ』と『本人』の距離」というタイトルの松尾スズキさんと太田光さんの対談の一部です)
【松尾スズキ:今って普通の新人お笑い芸人がバラエティ番組にぽんと出ても、わりといけるじゃない? あれはすごいなあと思いますね。
太田光:そうですね。オレらも最初は差別ネタばっかりだったんです。で、当時はライブでウケる芸人って、テレビに出れないやつらばっかりでしたからね。テレビで何をやってはいけないかよく分かっていなかったし、それに加えて「テレビなんかに出てやるものか」というワケの分からない反抗意識もあったし(笑)。
松尾:それは今の芸人志望の人たちと真逆ですね。
太田:明らかに違います。僕らが最初に出たのは(コント赤信号が主宰する)La,mamaってライブなんですけど、当時トリをつとめていたのがウッチャンナンチャンで、彼らやピンクの電話、ダチョウ倶楽部はテレビで成立するネタをやってましたけど、オレらはテレビでは流せないネタばっかり。オレらが最初にやったのは中国残留孤児もののコント。あとは全身カポジ肉腫だらけの原子力発電評論家とか、佐川一政くんがレストランを出しましたとか、どうしようもない。
松尾:ひどいですねえ(笑)。
太田:それでもオレらはまだ「テレビ用のネタも作らなきゃ」って気持ちがありましたけど、他のやつらはもう……気が狂ったやつらの巣窟でしたね。で、またみんなバカだから、そんなネタやってるくせにテレビのオーディションを受けに行くんですよ。障害者のモノマネやって「けっこうです」って言われたり(笑)。あとはトマトジュースを飲んで「今飲んだジュースを手首から出します」って言ってその場で手首を切ったり。
松尾:もう芸人でも何でもない(笑)。
太田:そもそも笑えないしね。あとはナイフを持ってきて振り回しながら客席に乱入するだけとか(笑)。で、オレらも一時期そっちの路線にいってたわけです。「そっちの方が偉い」「女コドモにウケる軟弱なネタよりも、ハードなネタのほうが上」みたいなノリがあって。
松尾:でも、田中さんの資質はそっち方向じゃないですよね?
太田:そう(笑)。で、そんなネタばっかりやってると、それを求めるファンしか来なくなるわけです。そのうちファンの方が危ないライブになっちゃって、自然と「これではダメだ」と思うようになりました。
松尾:そういう危ないネタをやりたくなる季節があるのかな? 今はあんまりないよね。
太田:新人のライブを見ても、面白いかつまんないかは別として、今はそのまんまテレビで流せるネタが多いしね。
松尾:思い出したけど、俺らもその頃、下北沢の駅前劇場とかで、ひどいギャグをやっていましたね。「黒人力発電」ってネタがあって、街で踊っている黒人をさらって原子力発電所に閉じ込めて、ヒップホップをかければやつらクルクル回るから電力が取れるんじゃないかとか。でも、あんまり回り過ぎると核融合を起こしちゃうから、そういうときは『アンクル・トムの小屋』を読んだら回転が収まるんじゃないかとか……。
太田:ひどい(笑)。でも、そういうネタって実際面白いんですよね。ただ、それを続けていくとエスカレートするしかなくなってきて、最終的にはチンコ出すとか放送禁止用語を言うとか、そういう単純なことになってきちゃうから、これじゃ全然面白くないなって。】
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この太田さんが語られている「当時」というのは、今から20年くらい前らしいのですが、「お笑い芸人」という存在、そして、芸人たちをめぐる環境は、この20年間で大きく変わってしまったみたいです。もしかしたら、今でも「テレビでは絶対に放送されないネタ」をひっそりとやっている知られざる芸人たちがいるのかもしれませんが。
今の主流である「モテるために」「有名になりたいから」お笑い芸人を目指すという人たちと比べると、当時の芸人たちが「お笑いを目指した理由」というのは、もっとドロドロしていて、表現への衝動みたいなものに満ちていたように思われます。というか、【トマトジュースを飲んで「今飲んだジュースを手首から出します」って言ってその場で手首を切ったり】とか【ナイフを持ってきて振り回しながら客席に乱入するだけ】とかいう「ネタ」のどこが「お笑い」なのか、もう全く意味不明です。知らずにそんなの見せられたら、僕だったら引きまくりそう。それを見て喜ぶ人ばかりが集まったライブ会場って、確かにすごく怖いだろうなあ。
とにかく「他人と違うことをやろう」とか「観客を驚かせよう」ということが目的になってしまって、どんどん表現が先鋭化してしまっていたのでしょう。まさに「もう芸人でもなんでもない」。ただ、それは現代的な感覚であって、当時の芸人からすれば「客に媚びるようなヤツは芸人じゃない」という感じだったのかもしれませんけど。
それにしても、爆笑問題がそういうアングラなネタをやっていたというのは、ちょっと意外ではあります。太田さんはさておき、田中さんは、さぞかしステージの上で居心地が悪かったのではないでしょうか。
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