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2007年04月25日(水)
「訪問先のニートから、恋愛感情を持たれることはないんですか?」

『わたしはレンタルお姉さん。』(川上佳美著・二見書房)より。

(著者がニート・引きこもりの社会復帰を支援するNPO法人「ニュースタート事務局」での「レンタルお姉さん」としての活動経験について書かれた本の一部です。「擬似恋愛も生きるチカラ」という項より)

【レンタルお姉さん、レンタルお兄さんの訪問を依頼されるのは、9割が男性のニートです。ニートの男女の割合は、決して9対1ではないと思うのですが、女性の場合は、特に仕事を持たずに家にいても、家事手伝いで通ってしまう部分があるので、男性ほどは周囲が問題視しないからかもしれません。

 必然的に、私たちが訪問するニートも男性が多くなります。
 そのためか、
「訪問先のニートから、恋愛感情を持たれることはないんですか?」
 という質問もよく受けます。

 それは、本人たちに聞いていただかないとわかりませんが、少なくとも、後を引くような恋愛による愛憎劇はいまのところ起きてはいません。
 たぶん引きこもっているニートは、みなさんが想像していらっしゃるよりも真面目で純粋だからだと思います。

 ふだんの活動のなかで、私たちはニートにたくさんの手紙やハガキを書きますが、彼らからは滅多に返事はきません。ただ、返事をくれる少数派のなかに、異性として関心を持ってくれていると感じる人もいました。
 その文面からは、心の揺れがストレートに表れていることも含めて、純粋さが伝わってきます。
 もしかしたら、私たちが中学生や高校生のころ、初めて身近に接する大人の異性として若い男の先生に憧れたような、ああいう感情なのかと想像してみたりします。人間関係が苦手で、10年も引きこもっていた彼らにとっては、そんな存在になるのかもしれないと……。

 私たちの活動を紹介していただいた本に、私が訪問を担当していたニート(当時25歳)から、「キスしていいですか?」と言われた体験が掲載されました。それ以来そのことが独り歩きしてしまった部分がありますが、そんな状況になることは滅多にありませんし、彼らがそんな積極的な行動に出ることもほとんどありません。
 あったとしても、「キスしていいですか?」と真面目に尋ねてくるくらいですから、その純粋さがわかっていただけるのではないでしょうか。

「異性として」という部分をことさら強調するつもりはありませんが、私としては、引きこもっている彼らが、私という「他人」に興味を示してくれることは大歓迎です。それは、引きこもった生活では、「自分」にしか目が向いていなかったのが、外に目を向けたということですから。自分だけの世界にいきなり入ってきた他人に関心を持ってくれるのは、喜ばしい話です。
 言葉が適当かどうかわかりませんが、一時の「擬似恋愛」も悪くないと思っています。人に興味を持つこと、好意を持つことは、生きるパワーにつながりますから。そんな感情を思い出してもらうことも大切なのです。】

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 確かに、そう言われてみれば、「ニートや引きこもりの男性」に対して、どうして「レンタルお姉さん」なのか?という疑問もわいてきます。こういう「ニートや引きこもりたちと家の外の世界とのつなぎ役」として、本当に「異性」のほうが効果的なのかどうか、実際に比較研究されたという話を僕は知らないのですけど、感覚的には「そりゃあ、(できればかわいい)女の子のほうが効果的なんじゃないかなあ」と、つい考えてしまうのです。「レンタルお姉さん」というシステムは、ある程度「擬似恋愛的な要素」を覚悟の上で成り立っているのかもしれません。たとえそれが「擬似」であっても、他人に対して何も感じないよりはマシじゃないか、と。

 ただ、この「レンタルお姉さん」たちが、みんな川上さんみたいに「割り切れている」わけではないだろうな、と僕は思うのです。川上さんは「レンタルお姉さん」になる前に、タイトラウンジで何年間か働いた経験があるそうなのですが、そういう世界で「擬似恋愛的な駆け引き」を経験してきたからこそ「それはそれで生きるパワーになるからいいんじゃない?」と言えるのではないかなあ、と。

 ニートたちの大部分は「真面目すぎて、考えすぎて今の場所から動けない人たち」なのでしょうけど、その一方で、「レンタルお姉さん」「レンタルお兄さん」として活動しようという人たちも、多くが「真面目な人」じゃないかと思うんですよね。そして、「真面目な人」にとっては、「恋愛感情を他人から持たれる」というのは、けっこう「心の負担」になる場合もあるはずです。そりゃあ、お互いに好き同士であれば言うことないんだろうけど、もし相手が「仕事の対象者のニート」であっても「好きです」って言われたら、何かしら心は動くのではないでしょうか。「キスしてもいいですか?」なんて問われたら、さすがにいきなり「OK」ってことはないでしょうが、「そんな気持ちはこちらにはサラサラ無い」、でも、「相手を拒絶するというのは、差別しているのではないだろうか……」と、悩んでしまうこともありそうです。

 実際は、「レンタルお姉さん」たちがニートたちと接するときには、【携帯番号は教えないし、手紙を書くときも差出人の住所は事務局の住所】というような感じで「一定の距離を保つ」ようにされているそうなのですが、それでも、「好意以上のものを持たれるかもしれない職業」というのはちょっと怖いよなあ、と感じてしまうのは事実です。「レンタルお姉さん」というのは、あんまり真面目すぎて融通がきかない人には、あまり向かない職業なのかもしれませんね。