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2007年04月08日(日)
「新幹線パーサー」を、知っていますか?

『新幹線ガール』(徳渕真利子著・メディアファクトリー)より。

(22歳の若さで、しかも、アルバイトから正社員になった直後にもかかわらずワゴン販売で売り上げナンバーワンとなった著者による、「新幹線パーサー」という仕事についての本の一部です)

【お客様との出会いは、いつも楽しく嬉しいことばかりではありません。ときには困った場面に遭遇することだってあります。
 避けられないのが自然災害です。台風や集中豪雨で新幹線の運転がストップした場合、車内で何時間もお客様にお待ちいただくという状況が発生することもあります。
 お客様には、仕事や私用などでこちらの想像以上に大切な予定がある方がたくさんいらっしゃいます。その予定が狂ってしまい、その上で何時間も待たされるとなると気持ちもイライラしてきますし、不安になってきます。そのお気持ちをやわらげるのもパーサーの仕事です。
 運転がストップしている間も、パーサーは休みません。こんなときこそお客様がワゴンを必要としているからです。何時間も待たされ、お腹は空くし喉も渇きます。もし商品が全部売り切れてしまったら、車内巡回に行きます。何よりも、お話相手になることが重要なんです。
 このような場面では9割以上がお問い合わせや苦情のお言葉です。でも一度、あるパーサーは「来てくれてありがとう。安心しました」というお言葉をお客様からいただいたそうです。彼女は後で、「涙が出るほど嬉しかった」と言っていました。

(中略)

(新幹線パーサーの「仕事上の悩み」について)

 その他によく出る話題は「足がむくんだ!」「ふくらはぎパンパン!」といった、立ち仕事ならではの悩みです。
 出発前のミーティングが終わり「さぁ出発しましょう!」と椅子から立ち上がった瞬間から、今度は数時間後に到着ミーティングが始まるまで、パーサーは一度も座ることがありません。
 整列して会社を出て、歩いて東京駅構内に入り、ホームへ出たら新幹線が入線するまでじっと立って待ちます。そして新幹線に乗り込んでからはワゴン販売。「のぞみ」に乗務する場合だと、乗車前後も含めて3時間半近く立ちっぱなしです。
 実は私、そんなに立ち仕事が嫌いではないんです。じっと座っている仕事にだけは就きたくなくて、「事務職の人はすごいなぁ」と思っていたくらいです。一つの場所におとなしく座ってとどまっていることができないんですよね。落ち着きがないんでしょうか。だけど人並みに、乗務の後は必ず足が張ります。
 新幹線の車両の全長は一両あたり約25メートル。東海道新幹線はすべて16両編成ですから、合計すると一つの列車の長さは約400メートルです。
 A車ワゴン(1〜7号車の指定席・自由席)担当の場合、1〜7号車を約3往復します。ワゴン販売だけでも、1回の乗務で1キロ以上歩きます。東京と新大阪を往復した場合、車内で2キロ以上歩くことになります。しかもただ歩くだけでなく、揺れる車内で重いワゴンを押さなければならないので自然と足をふんばります。どうしても足に負担がかかってしまうのです。

 今はインストラクターをしている先輩の田野倉理佳さんが、まだパーサーとして乗務していたときのことです。お客様が特に多いお正月に乗務したとき、「私、いったいどれぐらい歩いてるんだろう」と自分でも不思議に思ったそうです。そこで翌日、万歩計をつけて乗務に臨んだのでした。
 お正月の三が日が終わったばかりで、Uターンラッシュのピークの日です。このときの田野倉さんの勤務は二往復で、二日にまたがっていました。出勤したその日に東京と新大阪を一往復半。夜は新大阪に宿泊して、翌日に東京までの上り列車に乗務した時点で勤務終了、というシフトです。
 最初の出発ミーティングが終わって、東京駅へ出発すると同時に万歩計のスイッチをオン。夜寝るときだけ外し、翌日に東京に戻ってくるまでずっと着けていたそうです。
 記録はなんと4万歩! 参考までに、ビジネスマンの方が1日に歩く平均歩数は5千歩前後と言われています。お正月などの繁忙期はお客様からのご要望も多いですから車内を行ったり来たりしますし、ふだんよりもよく動く時期ではあります。それでもこの記録には驚きました。パーサーの仕事を続けている限り、運動不足になる心配はなさそうです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕はそんなに新幹線を利用する機会もないものですから、この「新幹線パーサー」の存在を、この本を読んであらためて知りました。ずっと「車内販売の人」っていうイメージしかなかったし、新幹線で車内販売を利用する機会もほとんど無かったもので。新幹線もどんどん目的地までの所要時間が短くなっていますし、コンビニや売店であらかじめ買い物をしておけば、車内で不自由するなんてこともなかったですしね。こう言ってはなんですが、「寝たり本読んだりするのに、ちょっと邪魔だなあ」とすら思ったこともおります。そして、ワゴンを押して「お弁当にお飲み物〜」とか言って歩いているだけで、ラクそうな仕事だよなあ、とも。

 でも、この徳渕さんの本を読んで、僕はあらためて思い知らされました。簡単そうに見えるけど、「新幹線パーサー」というのは、かなり大変な仕事みたいです。考えてみれば、全長400メートルもある新幹線の車内をワゴンを押して歩くだけでも、かなりの重労働ですよね。いくら新幹線はそんなに揺れないとはいえ、走行中ずっと立っているというだけでもけっこう足には負担がかかるはず。そして、単に「商品を売る」だけではなく、災害などで長時間列車が止まってしまったときには「商品が無くなっても、乗客の『話し相手』になりに行かなければならない」なんて。そういう場合、乗客は当然苛立っているでしょうから、「話し相手」というか「不安や不満の捌け口」になりに行くようなものですよね。僕だったら、「もう売るものないし、行っても怒られたりイヤミを言われたりするだけだから、控え室に待機してましょうよ」とか、言ってしまいそうです。考えてみれば、乗客側だって、彼女たちにクレームをつけたって、どうしようもないことくらいわかりそうなものではあるんですけど、「感謝された話」が語り継がれているということは、実際はかなり辛い目にあっているということなのでしょう。

 飛行機のCA(キャビンアテンダント)に比べると、「車内販売で回ってくる人」というイメージしかなかった「新幹線パーサー」なのですが、ワゴンを押しながら1日4万歩も歩くことがあるというのは、いくら若い人が多いとはいえ、かなり体力的にもキツイ仕事です。自分のワゴンに置いていない、あるいは売り切れの商品の問い合わせがあった場合には、他の担当者のワゴンにそれを取りに走ったりすることもあるそうですし。ちなみにだいたい1時間ずっと歩きっぱなしで1万歩くらいになりますから、4万歩といえば、揺れる車内で4時間ずっと歩きっぱなし!

 あの「車内販売」って、ワゴンを押して商品を売るだけの簡単でラクな仕事だと勝手にイメージしていたのですが、そんなに甘いものじゃないみたいです。
 ちなみに、アルバイトでの「新幹線パーサー」の待遇は【会社指定のローテーションでシフトに入る場合は時給1200円。週3日から自由にシフトを選ぶ働き方だと時給1000円(会社指定のローテーションだと宿泊勤務もあり】だそうです。「自給がいいので学生のアルバイトも多い」そうですが、僕はこの仕事内容を知ってしまうと、この時給が「いい」とは思えないなあ……