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2007年04月06日(金)
「銭ゲバ」と批判された松坂大輔の苦悩

「週刊アスキー・2007/4/10号」(アスキー)の「決断のとき〜トップアスリートが語る人生の転機」特別編・松坂大輔(後編)より。インタビュー・文は、吉井妙子さん。

【アメリカは契約社会。日本のように毎年交渉が行われるわけではなく、あとで何か問題が生じても話し合いで是正するという考えはない。最初に結んだ契約で全てが拘束される。メジャーでは、契約こそが選手のアイデンティティーであり、身分保障でもある。
 松坂は、敏腕代理人と言われるスコット・ボラスに交渉を一任したこともあり、すぐにでも契約したい気持ちをグッと堪えた。交渉期限は1ヵ月。なかなか進展したい交渉にファンやメディアは痺れを切らし、松坂は「銭ゲバ」「ごねている」との批判も生まれる。松坂はこの頃、無言にならざるを得ない苦しさを口にした。
「僕にも批判の声は届いている。でも、これまでのように”プレーできるなら、お金にはこだわりません”と安直な行動に出るわけにはいかないんだよ」
 その理由は幾つかあると言った。
「僕の年俸が、これから交渉が始まるメジャーのFA選手の基準にされている。彼らが胃を痛める思いをして築いてきた市場価値を、僕が壊すわけにはいかない。そして、日本人選手に正当な評価を求めるのが僕の役目だとも思っている。野茂さんがメジャーの扉を開き、イチローさんや松井さんがその実力を見せ、新たな時代に入った。彼らの実績をメジャーの人たちに認めてもらい、あとに続く後輩たちが正当に評価されるためには、ここで僕が頑張らないといけない」
 交渉期限日の5日前、松坂は最後の交渉場所のロサンゼルスに向かった。レッドソックス側もボラスも、一歩も引かない話し合いを繰り返している。
「今まで自分の手で人生を切り開いてきたけど、他人に全てを預けてしまったような不安というのかな、自分では何も言えない、何もできない焦燥感が、こんなに辛いものだとは思いもしなかった」
 松坂はいたたまれなくなり、自分も交渉のテーブルにつかせてほしいと頼んだ。スコットには年俸の上乗せはもういいと告げ、レッドソックスには、家族の安全を守ることに主体を置いた付帯条件を認めて欲しいと懇願。だが、レッドソックスの答えはノーだった。
「このときに、今回の落札は入札妨害だったのかと疑念が湧いた。日本に買えることも覚悟した」
 レッドソックスは、宿敵のヤンキースに松坂を渡さないためだけに、高額の入札をしたのではないかと疑ったのだ。レッドソックスは契約をしなければ1セントも懐を痛める必要はない。
 しかし締切り直前になって、レッドソックスもスコットも松坂の本意に添うような形で着地した。熱意が彼らを動かしたのである。
 子供の頃からの目標を実現させた松坂は、開幕を待ちわびている。】

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 5日(日本時間6日)に、7回1失点10奪三振の素晴らしい結果でメジャーでの初登板を飾ったボストン・レッドソックスの松坂大輔投手のメジャー移籍をめぐっての話です。
 僕も松坂投手の代理人のボラス氏とレッドソックスとのなかなか進展しない交渉をテレビなどで観ていて、興醒めしたというか、「松坂もせっかくのチャンスなんだから、入団する前にゴネるんじゃなくて、入団して活躍してから年俸上げてもらえばいいのに、ほんと、『銭ゲバ』だよなあ」と思っていました。松坂投手自身が「ワールド・ベースボール・クラシック」で活躍して評価を上げていた面もあるとはいえ、イチローや松井秀喜らの「先人」が活躍しているから、松坂ももっと評価されてしかるべきだ、なんていうのはあまりにも「我田引水」なのだはないか、という気もしていたんですよね。「同じ日本人で、日本球界で活躍していたのだから評価しろ!」と言われても、その時点で提示されていた(らしい)年俸も、けっして不当な安さだとは思えませんでしたし。それこそ「野茂やイチローや松井は、そんなに契約で揉めなかったのに!」って。

 僕はあのボラス氏とレッドソックスの交渉は、しょせん「デキレース」なのではないかと思っていたし、実際にタイムリミット寸前で交渉がまとまったときも「ま、最初からこういう手筈だったんだろうけどね」としらけた感じだったのですが、これを読んでみると、少なくとも当事者のひとりである松坂投手本人にとっては、「日本に帰ることを覚悟するほどのギリギリの交渉」だったのは間違いないようです。ボラス氏もレッドソックスの交渉担当者も百戦錬磨のツワモノですから、彼らにとっては「当然の決着」だったとしても。松坂投手側からすれば「そのくらいやってくれて当然」の「家族の安全のための付帯条件」にしても、松坂投手とその家族だけの話ならともかく、ひとつ「先例」をつくってしまうと、他の選手に波及していく可能性も十分にあるわけで、球団側にとっては「誠意だけの問題」ではないでしょうしねえ。

 まあ、こうして無事に契約を済ませて偉い人に「NHKで取り上げすぎ」とまで言われるくらい日本でも活躍が期待されている松坂投手、とりあえず幸先の良い初登板で何よりでした。
 ただ、某貧乏球団の大ファンである僕としては、やっぱり、「プレーできるなら、お金にはこだわりません」って言ってくれる選手のほうが好きなんですけどね。もう、日本国内での球団間の人気・資金の差でヤキモキするよりは、いっそのことみんなメジャーに行ってくれれば、それはそれでスッキリするんじゃないかという気もするのですが。