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2007年01月02日(火)
山本モナバッシングと日本社会の「息苦しさ」

「活字中毒R。」2006年総集編はこちらからどうぞ。

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「週刊SPA!2006.11/14号」(扶桑社)の鴻上尚史さんのコラム「ドン・キホーテのピアス・592」より。

【気がつくと、『タモリ倶楽部』のエッチなテーマの時には、必ず呼ばれるようになっていました。

(中略)

 今年(注:去年のエッセイなので、2006年)の5月に、その『タモリ倶楽部』で、「エロかしこいMCオーデション」という企画がありました。
 倖田來未さんの「エロかっこいい」に対抗して、「エロかしこい」女性司会者を探そうという、きわめてバカバカしい企画でした。
 そこに、大阪から来たばっかりの山本モナさんが参加していました。もっとも「エロってことで、いろんな事務所から断られた(笑)らしく、参加者は全部で二名、オフィス北野所属の江口ともみさんと山本モナさんだけだった、というのが、いかにも『タモリ倶楽部』でした。
 番組は、じつにくだらないエッチな質問を続けながら、どちらが「エロかしこい」に相応しいかを競い、僕を含めたゲストがいろいろコメントし、結局、二人とも合格、でも、二人とも「エロかしこい」という称号(?)を辞退する、なんていうオチで終わりました。
 その時のモナさんの印象は、”大柄な美人”なんてものでした。エッチな質問にもサバサバした口調でズバズバと解答し、色っぽいというよりあっけらかんとした姐御肌っぽい感じがしました。
 恋愛もセックスもとことん楽しむ、ラテン的な気質の人なのかと感じました。
 そんなモナさんが、代議士さんとキスをして、ずっと番組を休んでいましたが、とうとう、降板が決定したようです。
 この前、誰かのコラムで、「代議士が支持者や家族に謝罪していたのが不誠実だ。代議士は国民の税金をもらっているのだから、国民に謝罪すべきである」なんて書いてありました。
 でね。こういうスキャンダルが問題になると、いつも僕は、フランスのミッテラン元大統領のエピソードを思い出すのですよ。
 あなたも知っていますよね?
 ミッテラン元大統領には、愛人と子供がいて、大統領に就任しいてしばらくした時、記者との懇談の中で、「大統領には、愛人と子供がいらっしゃいますよね?」と聞かれて、「ええ、それがなにか?」と答えたという有名なエピソードです。
 じつは、その後、大統領は、この愛人と子供を大統領官邸に住まわせているのです、でも、フランス人は、誰も問題にしなかったのです。
 というか、マスコミは報道そのものをしませんでした。それは、同じように愛人の子供がいる日本の”大物政治家”のスキャンダルを決して報じないという恐怖からの”報道管制”ではなく、仕事をちゃんとしていれば、プライベートは問題にしないという”哲学”からです。

(中略)

 で、モナさんですよね。
 きれいなキスシーンだったじゃないですか。夜の街の灯に浮き立つような、見事に演劇的な形でした。なかなか、狙ってできるポーズじゃありません。男も女も、ちゃんと観客から顔が見えて、なおかつ、形だけではなく、色っぽく陶酔している、理想的にドラマティックなキスでした。
 こういうキスができる人を、通常のつまんない論理で責めてはいけないと思うのですよ。
 もちろん、『ニュース番組』のキャスターなんだぞ!という突っ込みはあるでしょうが、ぜひ、再起して、男女関係とか不倫とかを艶やかに語るキャスターになって欲しいと真剣に思いますね。
 だって、そうすることが、結果、日本人が世間から感じている息苦しさを減らすことになると僕は思っているのです。
 こういうスキャンダルに対して、日本人は「本音と建前」を使って生き延びてきました。それが、日本人のいい意味での”いいかげんさ”だったはずです。】

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 昨日、「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』で「テレビ復帰」されていた山本モナさんを観たのですけど(というか、僕は動いている山本モナさんを観ることそのものがはじめてだったのですが)、ソツなく司会をこなしていて、「ああ、この人はアナウンサーだったのだなあ」とあらてめて感じました。それが「起用の条件」だったのかもしれませんが、「例の事件」に対する突っ込みに対しても、とくに大きく動揺することもなく、番組でもその場面がオンエアされていましたしね。一部で報道されていたように、ビートたけしさんが彼女を「救済」するつもりで起用したのか、それとも単に「話題性」を評価して起用したのかは、僕にはわからないのですが、ああいう形でお正月番組に出演したことで、ある種の「ミソギ」が終わったと感じた人も、けっして少なくはなかったと思います。

 ここで鴻上さんが書かれている内容に関しては、うなずけるところもあるし、反発してしまうところもあります。
 ただ、実際に一緒に仕事をした際の【エッチな質問にもサバサバした口調でズバズバと解答し、色っぽいというよりあっけらかんとした姐御肌っぽい感じがしました。恋愛もセックスもとことん楽しむ、ラテン的な気質の人なのかと感じました。】という「印象」は、今までの山本モナさんの行動からすると、たしかにそんな感じの人なのだろうな、という気がするのです。「例の事件」が発覚した直後に、親しい人に「これにくじけずに頑張る」と話していたというニュースを聞いて、僕は「自分で蒔いた種なのに、『くじけず』っていう言葉の使い方はおかしいだろ、くじけず不倫するのかよ!」と呆れ返ったのですけど、実際のところ、モナさんには「運が悪かった」「キャスターとしては問題があったかも」というくらいの意識はあったのかもしれませんが、「不倫は悪いことだ」とは考えていないのではないかと思うのです。でも、それはやっぱり、「自由恋愛」を楽しむことよりも、「自分のパートナーがモナさんみたいな人に奪われたら……」と不安になってしまいがちな僕のような人間にとっては、「理解不能で、モラルに欠ける人」にしか思えないんですよね。

 ここで鴻上さんはミッテラン大統領の話を紹介されていますが、日本とフランスは違う文化の国ですし、ミッテラン大統領は「愛人がいることの是非」だけの問題なのに対して、山本モナさんの場合は、「不倫相手が取材・報道の対象となるであろう国会議員だった」という違いがあります。もし、ミッテラン大統領の「愛人」がフランスの国会議員だったりすれば、やはり問題になったはずです。いや「不倫」だけなら安藤キャスターも有名でしたし、「取材対象のはずのスポーツ選手と結婚した女子アナはどうなんだ?」と言いたくもなりますが(山本モナさんも、そう言いたかったのかもしれません)、あの事件の場合は、「あわせ技で一本!」的なところもありました。「ニュース番組に抜擢直後の不祥事」ということもあって、「こんな軽い女を、なんで起用したんだ!」と思われてしまったのも、いたしかたないところでしょう。本人も脇が甘かったし、起用した番組側の「人選ミス」でもありました。

 僕自身は、もう山本モナさんは報道をやるべきではないと思いますし、「好きになっちゃったんだからしょうがないんじゃない?」と「不倫」を認める気にもなりません。日本人には日本人なりの「快適なモラル」があるのです。鴻上さんが息苦しく感じる空気が僕にとって息苦しいものとは限らないし、鴻上さんが過ごしやすい空気は、僕にとって濃密過ぎて具合が悪くなってしまうかもしれません。
 ただ、山本モナさんだけがモラルに外れた人というわけではないし(というか、彼女のモラルが一般的な日本人のモラルとズレていたというだけで)、そこに「人間」が関わっているかぎり、本当に潔癖で公正な報道なんて、ありえないのだということは事実でしょう。
 まあ、昨日の番組を観ると、山本モナさんは、ニュース番組には出られなくても、バラエティー番組とかでしぶとく生き延びる、あるいはかえってこれで知名度が上がって成功したりするのではないか、という気もしているのです。たしかに「エロかしこい」雰囲気ではありますしね。