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2006年07月17日(月) ■ |
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夜中に「お寿司を作り過ぎたから今から食べに来ない?」と云われたら…… |
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「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)2006年8月号の連載エッセイ「もしもし、運命の人ですか。」(穂村弘著)より。
【例えば、先日或る女性作家のエッセイを読んでいたら、学生の頃は男の子に家まで送って貰ったら必ず「寄っていかない?」と云わなくてはならないと思い込んでいた、という意味の一文に出くわして愕然とした。 それは歩み寄り過ぎだろう。毎回そんなことをしていたら大変だ。送って貰ってそのまんま返したら、男が激怒するとでも思っていたのだろうか。もしも男性全般がそういう生き物だったら、そもそも交際なんてできないんじゃないか。 また別のケースでは、こんなこともあった。もう20年も前になるだろうか。 夜中に突然電話がかかってきて「お寿司を作り過ぎたから今から食べに来ない?」と云われたのだ。相手は知り合ったばかりの女性だ。 誘われているのか、たぶんそうだ、と反射的に思ったのだが、今ひとつ確信がもてない。これが普通に「御飯食べに来ない?」とか「ビデオ観に来ない?」だったら、もっと素直にOKサインと判断できただろう。だが、「夜中に作り過ぎたお寿司」というのが妙に具体的かつシュールで、案外、「本当にその言葉通りなのではないか」と悩んでしまったのだ。 知り合ったばかりなので、相手の性格もまだ掴みきれていない。夜中にお寿司なんて変だと思いつつ、いや、でも、彼女はもともと「そういうひと」なのかもしれない、と思ったりする。迷いながら、とりあえず相手の家に行ってみると、そこには本当に大量のお寿司が待っていてさらに混乱した。誘いの口実にしては、手間隙かかっていてインパクトがありすぎる。結局その日はお寿司を食べただけで帰ってきてしまった。あたまのなかで性欲と食欲が混ざって、おいしかったが気が散った。 この話をすると、「莫迦だなあ、それはOKに決まってるよ」と云う男友達がいる。「莫迦だねえ、OKに決まってるじゃん」と云う女友達もいる。 だが、と私は思う。本当にそうだろうか。君たちは第三者の目でみているから軽くそんなことを云うけれど、本当に当事者になったら、もっと違った反応というか思いがけない行動をとったりするのではないか。 少なくとも私の感覚では、現実のなかでの人間の反応は不定形で掴みがたいものだ。真夜中のお寿司だけ食べて帰ってくるほど思い切りの悪い私が、いくらなんでもこれはOKだろう、と確信して迫ったら、「ええー? 全然そんなつもりじゃなかった」と叫ばれたことだってあるのだ。 慌てて謝りながら、思わず心のなかで「観客」たちに向かって、「でも皆さん、この場合、普通いきますよね?」と問いかけたくなった。】
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そもそも僕は、こういう「恋愛の駆け引き」みたいなのって全然ダメなのですけど、ここで穂村さんが書かれていることはわかるような気がします。まあ、僕が友達から「第三者」としてこのお寿司の話を聞かされれば、やっぱり「それはOKに決まってるだろ!」って言いそうではあるのですが。 でも、確かに「御飯作りすぎちゃったから…」とか「面白いビデオ借りてきたんだけど」みたいな文脈であれば、「お誘い」にも応じやすいと思うのですが、いきなり「大量の寿司」となると、逆にちょっと考え込んでしまいますよね。それも、知り合ったばかりの女性からの誘いとなれば。 「カレー作りすぎちゃった」とかなら、なんとなく合点がいくとしても、「寿司」となると、なんだか「家に行ったら宗教の勧誘の人たちが待っていて…」とか「お金貸してって頼まれるのでは…」とかいうような想像も、僕ならしてしまいそう。 ところで、このとき穂村さんの前に出された「大量のお寿司」って、握りずしだったのでしょうか、それとも、稲荷とか海苔巻き、ちらし寿司レベルだったのでしょうか?それによっても、また違うリアクションになりそうです。握り寿司って素人にはなかなか作れそうもないですし、「作りすぎ」たりするのは、けっこう至難の業だと思われますから。 もしかしたら、女性のほうもあれこれ考えた末、「普通の御飯だったら断られるかもしれないけど、お寿司みたいな御馳走だったら、来てくれるのでは」と考えて寿司にした、という可能性もありそう。
確かに、第三者としてなら、「鉄板!」と言いたくなるような状況でも、当事者にとっては、かえって悩ましいときって、あるのではないでしょうか。そして、周りから「あの娘、絶対お前のこと好きに決まってるよ、行け!」と言われて行ってみたら、「そんなつもりじゃなかったのに…」「他に好きな人がいるんです…」なんて振られてしまうなんてことも、けっこうあるんですよね実際は。好き嫌い以前に、異性に対して、そういう「お誘い」だと誤解されるような行為にこだわらない人とか、誰に対しても思わせぶりな人っていうのも、いるからなあ……
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