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2006年07月01日(土) ■ |
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或る「裏人形師」の告白 |
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「危ないお仕事!」(北尾トロ著・新潮文庫)より。
(「ダッチワイフ」の製造業者、人呼んで「裏人形師」こと『ハルミデザインズ』の島津さんという方へのインタビューをまとめたものの一部です)
【変わったワイフファンもいる。女房に先立たれ、自殺未遂までしてうちひしがれていたところへ雑誌でさちこ(注・『ハルミデザインズ』で製造されているダッチワイフの商品名)の存在を知り、購入。この人はお礼まで送ってきた。もはや高齢でナニはできないけれども娘のように可愛がっている人もいる。さちこが生き甲斐になっているのだ。人形の力である。口パックリのワイフではこうはいかない。こんなところで人助けまでしているとは、さすが人形師……。 「うん、だからこの仕事は奥が深いですよ」 そうなのだ。アダルト通販グッズっていうのは、どこで誰がどういう風に使っているのかわからないけれど、それぞれに奥があると思われる。まして人形の要素が加わっているのだ。妙な世間体や常識の呪縛から逃れることさえできたら、おもしろい仕事といえるかもしれない。 「いままで何人か1、2年使ってから返品してきた人がいますよ。愛着が湧いて処分できないんですね。それぐらいもう、愛情を感じてしまう、心のスキマを埋めるようなところがあるんでしょうね」 そんな作ったような話があるのかと突っ込んでみたが、利用者からの礼状、感想文の束を見せられ、納得。本当だった。 寺の坊主の常連客もいる。小学校の校長先生もいる。綿々とオノレの身の上を語るヤツ、ただたださちこの具合のよさをたたえるヤツ、化粧して人に見せたら誰も人形だと気がつかなかったと喜んで写真を送ってくるヤツ、ほめちぎりながらも改良点を指摘してくるヤツ、夫婦で愛用(どうすんだ)してるっていうヘンなヤツもいる。 まったくみんな、フクザツな人生を生きているのね。】
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この島津さんの会社は、もともと工業用の動力電動機や分ぱん器を作っていたのだそうです。そんな中で、たまたま見つけた「特殊なスポンジ」という素材を生かすことを考えて、この「ダッチワイフ製造」に辿り着いたのだとか。ちなみに、従来の「空気を入れて膨らませるタイプ」に比べて、スポンジのメリットは「肌触りが良いこと」で、デメリットは、「場所をとるし、空気を入れるタイプのように、小さくして仕舞っておくことはできないこと」だそうです。
もともと、「人形」というのは人の魂が乗り移るなんて言われていますし、感情移入の対象になりやすいものではあるとは思うのですが、この「さちこユーザー」たちのさまざまなエピソードには、なんだかとても印象深く思えます。そりゃあ、「ナニをしないのであれば、わざわざ『さちこ』じゃなくても……」という気もしますし、いくら自分の手で処分するのがしのびないとはいえ、そういう「中古品」を送り返してこられても……とも思うんですけどね。しかしながら、「性」に関する問題というのは、いつの世のでも、滑稽である一方で、なんだかとても哀切なものがあるのです。 たぶん、「さちこ」を愛用している人たちというのは、世間的にはけっして目立つ人ばかりではないだろうし、とくに「変人」揃いというわけではないはずです。むしろ、僕たちの周囲にたくさんいる、真面目で自分の欲望を開けっぴろげにできないような人のほうが、多数派なのかもしれません。 でも、そういう「普通の人」の中にも、「さちこ」でしか埋められないような心の隙間が存在しているのかと思うと、本当に、「みんな、フクザツな人生を生きているのだな」と感じますし、「普通に」生きていくっていうのは、結構大変なことだよなあ、とあらためて考えてしまいます。
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