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2006年06月26日(月) ■ |
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寺山修司の「伝説の舞台」 |
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「名言セラピー」(ひすいこたろう著・ディスカヴァー)より。
(「伝説の舞台」という項から)
【舞台を観に行きました。 しかし、5分経ってもはじまらない。 15分経ってもはじまらない。 「どうなってるの?」 開演になっても役者は誰もステージに上がりません。 会場がざわつきはじめました。 「なにしてるんだっ!」 文句を言いはじめる人も出てきました。
この雰囲気やばいよ。
僕の後ろの席にいた人たちは、こんな話をしはじめました。 「前、雑誌で、この劇団の主宰者のインタビューを読んだんだけど、ある女性に恨まれているらしくて、ときどき金縛り?みたいなので突然動けなくなるんだって。 ひょっとしていま、金縛りにとかになって出てこれないんじゃない?」 「んなわけねえだろ」 僕は心の中で思いました。 そのときです。会場の照明が消えました。 会場が真っ暗闇に。 すると、僕の隣の女性が 「キャー!!!」という大きな叫び声を上げたのです。 「キャー、チカン!!!」 「おい、俺じゃねえぞ」 しかし、後ろの人が「お前か!」と僕の首をつかんできたのです。 「俺じゃねえって」 大変なことになりました。会場騒然。 実は、すでに舞台は、はじまっていたのです。 観客席に役者が最初から混じっていて、 「チカン」と叫んだのも役者。 真っ先にさわぎだした観客も役者。 なんではじまらないのか、隣の人に勝手な噂を流していた観客も実は役者。
現実と舞台が混じり合う。
なにが演技でなにが現実なのか、まったくわからない世界へ誘い込む。
これが伝説になった寺山修司の舞台「観客席」です。】
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この『観客席』の初演は1978年ですから、今からもう、30年近く前の話になるのですね。寺山さんが、演劇実験室「天井桟敷」を結成したのは、1967年だそうですから、寺山さんが31歳のとき。確かに、この『観客席』のアイディアは「凄い!」としか言いようがありません。ミュージカル「キャッツ」などでは、猫(役の役者さんたち)が観客席に入りこんでくるという演出があるのですが、この『観客席』の場合は、ほんとうに「巻きこまれてしまう」という感じですし。 しかしながら、このアイディアが「斬新」であり、演劇の歴史上、非常に大きな作品であるというのはよくわかるのですが、僕がもし1人の観客として、この「現場」にいたらと思うと、正直、「こんな怖い目に遭わされるのはツライなあ……」という気がします。やっぱり「当事者」にとっては、「新しい!」というより「なんなんだこれは…」という困惑のほうが大きいのではないかと。後世の人からすれば、「素晴らしいアイディア」なのかもしれませんが、「前衛」って、その場にいる人にとっては、災害みたいなものなのかもしれませんね。 ちなみに、寺山さんの「作品」には、【劇場の小空間だけでは満足せず、出会いの場を市街へと求め杉並一帯で行われた三十時間市街劇「ノック」】なんていうのもあり、当時は社会的にさまざまな論議を巻き起こしたそうです。そりゃあ、いきなり自分の近所でなんだかわけのわからないものを「上演」されたら、普通の人は驚愕してしまうはずです。少なくとも劇場で「寺山修司の劇団」を観に来た人は、それなりの「覚悟」ができていたのだとしても、杉並の一般市民にとっては、まさに「意味不明」だったはず。 今、これを読んでみると、寺山さんの発想のすばらしさに感動しますし、これを演じる役者さんたちにとっても「熱い時代」だったのだろうなあ、とは感じるんですけど、僕は、この作品に「参加」するのは辞退したいところです。
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