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2006年06月17日(土) ■ |
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日本人の愛した「円周率」 |
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『ダ・ヴィンチ』2006年7月号(メディアファクトリー)の連載記事「一青窈のヒトトキ・第35回」より。
(一青窈さんとサイエンスナビゲーター・桜井進さんの対談の一部です)
【一青:数学は私が教わってた頃と何か変わりました? 一時期3.14を約3にするとかいう話がありましたけど。
桜井:それ語りだしたら大変ですよ。
一青:そうなんだ(笑)。
桜井:あの小数点以下を求めるのに人類が2000年も3000年もかけてきたわけで。まさに数学の歴史は円周率の歴史であり、円という最も単純で最も深い歴史を調べたのが数学だったんです。「とにかく3.14だから、約3ということで計算しなさい」というその性急さが、もう、数学の歴史を無視する暴挙ですよ。これはもう言語道断。そんなこと決めるなんて日本人は一体どうしちゃったの? 日本は円周率をこよなく愛してきた世界でも稀な国なんですよ。円周率に関する世界チャンピオンは全部日本人なんです。
一青:えーっ。そうなんですか。
桜井:暗記チャンピオンも歴代日本人だしね。最初に1万桁覚えたのも日本人でソニーの研究員。友寄英哲氏。次に1万桁を突破したのも後藤裕之君っていう当時慶応大学の文学部の2年生で、やることなくて暇だからって1日100桁覚えて結果4万2000桁覚えちゃったの。で、去年千葉県の原口さんっていうオジさんが8万3000桁を言ってのけた。
一青:スゴイ。
桜井:円周率の計算の世界チャンピオンも東大の金田先生で1兆桁出してる。
一青:なんでそこまでするんですか?
桜井:いい質問です。そうこなくちゃ。たとえば誕生日を西暦で表すと一青さんなら19760929。名前もローマ字を変換して数字にすると一青さんのパーソナルIDナンバーができますよね。これと全く同じ並びの数字の人は世界中探してもおそらくそうはいない。で。このIDナンバーは円周率のどこかに必ずあるんですよ。
一青:ロマンだ〜(笑)。
桜井:うん、あるいはね、今日、我々がここにいるこのインフォメーションをすべてデジタルデータにするとしますよね。ここの緯度と経度、それから我々のパーソナルIDを全部つなげてさらに日付もつける。そうするとその数字も円周率のどこかに必ずあるの。
一青:うわ〜。鳥肌。】
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僕は正直なところ、数学が好きでも得意でもないものですから、円周率にロマンを感じることはありません。そりゃあ、「約3にする」という話を聞いたときには、今の子供たちに「お前たちばっかりラクしやがって!」と、イヤミのひとつも言いたくなったりはしましたけどね。そもそも、1兆桁まで計算すれば、大概の数字の並びはそこに含まれているに決まっているではないですか。 まあ、僕のそんな個人的な感慨はさておき、日本人は数学好きが多い民族なのかもしれません。僕も中学・高校時代のとき、「数学オリンピックには、日本人の若者がたくさん出場している」なんて話をよく聞いて感心していましたし。それって僕にとっては、スポーツでオリンピックに出場するのと同じくらい縁遠い世界の話だなあ、とぼんやりと思っていたのを覚えています。 そして、日本人はとくにこの「円周率」というものにこだわりを持っている人が多いのだなあ、ということを、この話を読んでいてあらためて知りました。「びっくりチビッコ大集合」みたいな番組でも、「円周率を何千桁も記憶している子供」というのはよく取り上げられていますよね。たぶん、海外の同じような番組では、「円周率を覚えている子供」なんて出てこないのでしょう。 さらに、「円周率の暗記チャンピオン」が、数学の専門家ではなくて、ソニーの研究員とか慶応大学の文学部の学生だったりするのも、ちょっと不思議な話ですよね。慶応くらいの大学であれば、そりゃあ、数学が全然できないと入れないでしょうけど【やることなくて暇だからって1日100桁覚えて結果4万2000桁覚えちゃった】というのも、すごいエピソードです。彼は、なぜ「ヒマだから」という理由で、「円周率を覚えよう」と思ったのだろうか……もっと他に面白いことはなかったのかなあ。それにしても、僕だったら、1日100桁覚えたとしても、3日経てばそのうちの90桁は確実に忘れてしまうそうなので、死ぬまでやってもそんなに覚えられないような気がします。全部で4万2000桁なんて、言うだけでもかなり時間がかかるし、本当に正しいかどうか、確認するのもなかなか大変ですよね。
でも、いわゆる「研究の世界」って、こんなふうに他の人が「なんで?」と思うような物事にロマンを感じる人々がリードしてきたのもまた事実なのだよなあ……
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