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2006年05月15日(月)
ジーコ監督をめぐる伝説と神話

「日刊スポーツ」2006年5月15日号のワールドカップ特集記事「ジーコ、11の神話」より。

(サッカー日本代表のジーコ監督のさまざまなエピソードを集めた記事の一部です。取材は、岡本学さんとエリーザ大塚さん)


<記者であり、ジーコの窓口を務めたラウル・クアドロス氏の証言>
 ジーコがフラメンゴでプレーした74年、サウジアラビア、クウェート、ギリシャなどを回るツアーがあった。どこへ行っても人気だったが、とくにジーコのパスはすごかった。ジーコのチームメイトにダダという選手がいたんだが、あまりに素晴らしいパスを連発すつジーコに文句をつけたんだ。「あまりきれいなパスを出すと、自分の責任が重くなる。奪われたときに『何やってんだ!』ってヤジがすごいから」。観衆から批判されないために、ジーコのパスを拒絶したんだ。
 21歳にしてジーコは伝説をつくった。

<鹿島MF本田泰人選手>
 プレーヤー時代も、TD(テクニカルディレクター)になってからも、とにかく守備のことについては口やかましく言われた。攻撃的なポジションの選手だったけど、守備重視の指導者というイメージに近い。当時は中盤ダイヤモンド形。本田技研から入団したときは、こんな組織的な守備があるのかと新鮮だった。オレは当時ワンボランチでスタメンにいたから、ジーコにポジショニングや攻守のバランスの取り方をよく言われた。
 現役時代から、周りの選手のモチベーションを高めるのがうまかった。試合前の円陣で、必ず気合を入れるための言葉を選手に言っていた。内容はシンプルだったけれど「いいか、みんな。この試合の重要さは分かっているな。勝ちに行くぞ」とか。あのジーコが率先して、顔を真っ赤にして気持ちを高めている。オレらがやらずに誰がやるんだって気持ちにさせられた。
 代表では選手を信頼、選手たち自身が考える「自由なサッカー」を展開しているが、昔は口うるさかった。試合前に選手に気合を入れるのは変わらないが「サッカーを楽しんでこい」が代表で選手を送り出す際の合言葉になっている。

<日本協会の福士一郎太プレスオフィサー>
 監督は理想の上司、理想の先輩、理想の父親ですね。04年夏のアジア杯の記者会見で、用意されているはずの英語の通訳がおらず、急きょ、自分が担当することになったんです。ある海外メディアが「通訳が良くない」と会見をさえぎるようにクレーム。これに対して監督が「通訳が用意されていないのは、チームの責任ではない。一郎太は君たちのために特別にやってるんだ。文句を言うなら大会側に言え!」とかばってくれたんです。
 「ファミリー」と表現されるが、ジーコ監督はスタッフを大事にし、信頼して仕事を任せる。偉そうなスーパースターではない、ジーコ監督は理想の上司として信頼されている。】

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 サッカーファンからは、何かとその「無策」を否定される機会も多い日本代表のジーコ監督なのですが、こうしてさまざまな「神話」を並べられてみると、やっぱり凄い人なんだなあ、という気がしてきます。
 「あまりにパスが素晴らしすぎて、チームメイトに『俺にパスを出さないでくれ』と言われたなんて、まさに「伝説的」ではありますよね。しかし、ダダ選手、いくら顔見世興行的な側面がある世界ツアーだからって、それはあまりにも弱腰すぎるんじゃないかね。
 選手としてのジーコの凄さは、語りつくされていることではあるのですが、本田選手や福士プレスオフィサーの話などを読んでいると、「リーダーとしてのジーコ」も、かなり良い面がたくさんあるのだなあ、と感じます。もちろん、周りの人たちも「あの(名選手の)ジーコが!」という目で見ていますから、ちょっとしたことでも、【あのジーコが率先して、顔を真っ赤にして気持ちを高めている。オレらがやらずに誰がやるんだって気持ちにさせられた。】なんて、士気高揚の効果もアップするのでしょうけど。トルシエだって、「顔を真っ赤にして」いたけれど、あれはどちらかというと、「ヒステリックなキャラクター」だと認識されていましたから。
 選手としての実績や知名度に劣るトルシエ監督やオフト監督の場合は、同じことをやっても周囲の「感激度」は低いでしょうから、「理論武装」していかざるをえない面もありそうです。
 それでも、「名選手、必ずしも名監督ならず」という言葉は広く知られていますし、そういう「当たり前の気配り」ができる「名選手」というのは、少数派なのかもしれません。マラドーナは、さすがに極端な例、だと思うのですが……
 考えてみれば、「あのジーコが監督をやっている国」というのは、ものすごいことなんですよね。ただ、今の日本の実力で、ジーコが望む「正攻法」が通用するかどうかは疑問なんですよね。
 ジーコがもし、「正攻法が通用する国」、たとえばブラジル代表の監督だったら、優勝しちゃったりするんじゃないだろうか。