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2006年04月19日(水) ■ |
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新庄剛志の「引退」に寄せて |
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「上機嫌の作法」(齋藤孝著・角川oneテーマ21)より。
【プロスポーツの世界は上機嫌な人材の宝庫ですが、今のプロ野球でナンバーワンの上機嫌男といえば新庄剛志選手です。彼には、次にどんな行動に出るか、何を言い出すか予測できない面白みがあります。 たとえば、阪神時代には、「ジーパンが似合わなくなるから」という理由で、下半身強化のトレーニングを拒否したことがありました。 「センスないから(野球)辞めます」「僕はJリーガーになりたい」と引退宣言したかと思うと、数日後には撤回したことも。 そうかと思うと、突然FA宣言をし、阪神からの5年12億という提示を蹴って、2400万円でメジャーリーグ、ニューヨーク・メッツに入団する。「結果はどうあろうと、俺の人生なんで、楽しもう」。欲得を度外視した潔さ、これぞ新庄選手らしい上機嫌です。そして「新庄はメジャーでは通用しないだろう」という大方の予想を覆し、最初の打席でヒット、ホームでの初ヒットがホームランといった華のある一面を見せるのです。しかし、当の本人は通用するかしないかなど全く意に介さず、ただ楽しめるか楽しめないかを尊重して野球をやる。 「記録はイチロー君に任せて、記憶は僕に任せてもらってがんばっていきたい」と語ったこともありました。 昨シーズンからは「ハムの人になります」と北海道日本ハムファイターズに入り、「これからはセでもメジャーでもなく、パ・リーグです」と言ってファンの注目を集めています。 目立つことや、人から注目を浴びることが大好きな新庄選手の場合、もともと天然の上機嫌気質を持っているといえそうですが、彼の言葉には、みんなを楽しませよう、喜ばせようという気持ちが非常に強い。そのためには、進んで自分を笑い飛ばそうとする。サービス精神が旺盛なのです。 野球一筋にやってきた人間らしからぬ発言がポンポンと飛び出してくるのも、新庄ならでは。野球少年には「女の子にモテるように、カッコよくプレイしろ」とアドバイスする。「うまくなっていいとこ見せよう」という気持ちがあれば努力するし、上達もするから。一見「ええ格好しい」のお調子者のように聞こえますが、「カッコよく見せる」ことは自分を客観的に見る目がなければできません。ただの能天気ではないのです。】
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<新庄選手の通算成績(2005年シーズン終了時点)> (日本)1285試合 打率.253(4725打数1196安打) 189本塁打 654打点 71盗塁 (MLB)303試合 打率.245(876打数215安打) 20本塁打 100打点 9盗塁
ちなみに、メジャーから帰国して、日本ハムに移籍してからの新庄選手の成績は、2004年が、123試合出場、504打数150安打で、打率.298、本塁打24本で79打点(ゴールデングラブ賞受賞)、2005年が、108試合出場、380打数91安打で、打率.239、本塁打20本で57打点(ゴールデングラブ賞受賞)でした。 この成績だけを見れば、新庄選手は記録的には「一流ではあるけれども、超一流とは言い辛い」レベルの選手であり、去年の成績と足の怪我を抱えていることを考えると、「引退を考えても不思議ではない」という気もします。広島ファンの僕としては、去年2000本安打を達成して引退した野村選手でさえ、野球ファンとスポーツニュース以外ではほとんど話題にならなかったのに、このくらいの成績の選手の「引退宣言」が、全国のトップニュースになってしまうというのは、ちょっと不思議ではありました。 とか言いながら、僕も昨日の「引退劇」から、なんとなく、新庄選手のことばかり考えているのですけど。 新庄選手は僕と年齢が近いのですが、僕は新庄のあの傍若無人な態度、以前はあまり好きではありませんでした。むしろ、「野球選手なんだから、もっと真面目に野球やれよ!」「格好ばっかりつけやがって!」というような、否定的なイメージを抱いていたのです。その感情のなかには、あんなに「自由奔放」にもかかわらず、世間から「叩かれる」なんてこともなく、かえって愛される新庄剛志という人間への妬みの成分も含まれていました。 でも、最近になって、僕にもなんとなく、新庄剛志という人間の魅力がわかってきたのです。いや、考えてみれば、新庄って本当に「サービス精神」の塊のような人なんですよね。あのバカっぽくて何も考えて無さそうなポジティブさというのは、「裏表のない率直な人柄」なのだし、本当に「みんなを喜ばせるのが大好き」なんですよね。難しそうなことを言って他人を否定ばかりしがちだった昔の僕にはよくわからなかったのだけれど、人の世には、たぶん「太陽」が必要なのです。「とにかく、難しく考えてばっかりじゃなくて、楽しくやろうぜ!」っていうお手本を見せて、みんなの気分を明るくしてくれるような。 なんだかね、最近の僕は、新庄を見ていると、けっこう元気が出てきていたんですよ。相変わらずバカだなあ、でも、こいつスゴイなあ!って。 僕の上の世代にとっては、長嶋さんがまさに、そういうタイプだったのではないかと思うのです。
新庄選手というのは、実は、ものすごく「気配りの人」でもあるそうです。日本ハムに入団したときには、背番号を譲ってくれた選手にすぐにお礼とお詫びの電話を入れたとか、今年も開幕の際に、こっそり楽天の野村監督に挨拶に行ったとか。考えてみれば、本当に「他人の心が分からない人」に、みんなを喜ばせるパフォーマンスができるはずもないんだよなあ。そして、野村監督もインタビューで話しておられましたが、新庄選手の本当にスゴイところは「守備と肩と足」だったそうで、成績にもあらわれているように、けっして「ホームランバッター」ではなかったんですよね。
僕もぜひ一度、今シーズン中に、ナマ新庄を観ておきたくなりました。いやまあ、「新庄剛志引退ツアー」にほぼ1シーズン付き合わされる羽目になってしまった日本ハムの他の選手たちには複雑な心境もあるとは思うのですが。 でもなあ、今シーズンの「野球界からの引退」で感傷に浸っていたら、来年以降はさらにいろんなところで活躍していて、「センチになって損した」とかいうことも十分にありえそう……
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