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2006年04月13日(木)
ものすごく困る悩み相談

「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)2006年5月号の本谷有希子さんのエッセイ「小耳劇場・第9回『悩み相談の巻』」より。

【先日、ものすごく困る悩み相談を耳にしてしまった。夕方のファミレスで隣のテーブルに座った小学生男子とそのお姉ちゃんらしき中学生女子の会話だったのだが、それまではお互い一言も言葉を交わさず運ばれてきたパフェにスプーンを突き立てていたというのに、ふと弟のほうが思い詰めたような表情でその悩みを淡々と打ち明け始めたのである。
「姉ちゃん、最近、俺の中にキムタクが住んでる」
 ヤバい。これはかなりヤバい相談だ。なぜならキムタクは家の中に住むものであって、小学生男子の中に住むものではないからだ。だったらまだ「最近、俺の中に金正日が住んでる」のほうが社会情勢について考えてそうでマシな気がする。「俺の中に悪魔が住んでる」。これも比喩表現っぽくてだいぶいい。ここまで来たら思いきって「俺は山手線沿線に住んでる」でいいじゃないか。
 しかし少年は「ちょっと待って。今あいつ呼ぶから」と片手を軽くあげ、それまでとまったく同じ淡々としたトーンで「キムタクです」と挨拶した。キムタクが「キムタクです」と挨拶する衝撃。私はこのピンチを姉がどう乗り切るんだろうと気が気じゃなかったが、バニラアイスをスプーンに載せた彼女は一言「メロンジュースもらって来て」と命じ、「キムタク」と頷いた弟は空になったグラスを持ってドリンクバーに走っていった。知らなかった。キムタクは「キムタク」って返事するのか……。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この「困る悩み相談」の話を読んで、そういえば僕も「パンダの物真似」ということで、「パンダパンダ」なんて鳴いてみせたりしていたなあ、などと懐かしく感じました。もちろんパンダは、「パンダ!」なんて鳴いたりはしないのですけど。
 それにしても、この「俺の中にキムタクが…」という話って、言っているのが小学生ではなくて大人だったら、さらにすごい衝撃だったと思います。僕だったら、なるべく早く食べ終えて、レシートを掴んでレジに向かいたい気持ちと、その後の展開が気になるのとで、とても悩んだだろうなあ。
 まあ、その場合は、細木和子先生とか、宜保愛子先生の出番になってしまいそうですが。

 大人のこういう「頭の中に住んでいる系」に比べれば、この「頭の中に『キムタクです』と名乗るキムタクが住んでいる男の子」は、かわいいもの、ではあります。こんなふうに全国で呼び出されているのかと想像すると、キムタクさんも大変だろうなあ、と同情してみたり。
 そして、ここまで踊ってみせている弟を完璧にスルーして、「キムタク」にジュースを持ってこさせるお姉さん。子ども同士というのは、ある意味、大人と子どもよりも冷酷かつ無関心なもののようです。
 たぶんこうして「少年の頭の中のキムタク」というのは、失われていくのでしょうね。

 僕だったら、この「相談」に、どう答えただろう?