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2005年10月20日(木) ■ |
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「黒澤天皇」のリアリズムとアバウト映画の2大巨匠 |
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「日経エンタテインメント!2005.11月号」(日経BP社)より。
(特集記事「DVDで発見!巨匠が赤面する珍場面集〜名作映画50本のミスを探せ!」より。)
【ミスのない黒澤映画の秘密
徹底したリアリズム描写で知られる黒澤明監督の作品には、ミスはほとんどない。 身代金誘拐事件を題材にした『天国と地獄』では、当時の東海道本線。特急こだまのトイレの窓が数センチだけ開くことに着目。わずかに開いた窓から投げられる幅のビジネスバッグを使い、犯人がまんまと身代金を手にするという緊迫の場面を生んだ。 事実を徹底的に追求するためにロケハンを重ね、納得するまで調べるのが黒澤流。トイレの窓からビジネスバッグを投げる場面では、こだま2両を借り切り、特別ダイヤで運行させたという。 ほとんど画面に映らないエキストラにもリアルさを求めた。 戦国時代の毛利一族の内乱を描いた『乱』では、エキストラのメイクに1人平均3時間を費やした。『野良犬』の撮影中は、数千本のタンポポを取り寄せ、撮影現場となった多摩川の川辺に1本ずつ、植えていった。 万が一ミスが見つかった場合、どんなにお金がかかろうと撮り直した。それが黒澤天皇とやゆされる一因ともなった。 『夢』にゴッホ役で出演したマーティン・スコセッシは、黒澤監督の完璧な時代考証に強く影響された。今年のアカデミー賞候補となった監督作『アビエイター』では、トイレットペーパーに至るまで、映画の背景となる1930年代から40年代の市販品を復元。黒澤芸術を踏襲した演出だったという。】
(一方、こういうアバウトな監督たちもいる、という話)
【アクション作品は多少の事実誤認が許されるが、度が過ぎるとあきれられてしまうことも。現実無視の2大監督がマイケル・ベイとレニー・ハーリンだ。 マイケル・ベイは『アルマゲドン』で、ブルース・ウィリスらに宇宙で地球と同じような重力がある感覚で作業させていた。 1941年を主な舞台に太平洋戦争を描く『パール・ハーバー』では、ベン・アフレック演じる主人公が海辺の酒場でウィスキーを飲むシーンで、瓶に当時はなかったバーコードが入っていたし、海辺で遊ぶ看護婦は戦後に発表されるビキニを着ていた。 レニー・ハーリンは『ダイ・ハード2』で空港にあるはずのないマンホールを描いたり、『クリフ・ハンガー』で雪山の高所にもかかわらず主演のシルベスター・スタローンをランニングシャツ1枚にしたり、『ディープ・ブルー』でサメを後ろに泳がせだりとめちゃくちゃな描写のつるべ打ちだ。】
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ちなみに、この特集によると、「2004年最も間違いの多かった映画」は、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で、「歴代最も間違いの多かった映画」は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」なのだそうです。 まあ、大ヒット作品だからこそ、観た人も、間違い探しをした人も多かった、という面もあるんでしょうけど。 それにしても、ここで語られている黒澤明監督の執念には、正直、驚かされます。「たかが映画じゃないか」と言うのは失礼なのですが、「新幹線2両を借り切って特別ダイヤで運行」なんて、今の過密ダイヤでは不可能な気もしますし、エキストラのメイクにひとり3時間なんて、そのエキストラにとっては良い経験なのかもしれませんが、商業映画としの「コストパフォーマンス」を考えると、正気の沙汰とは思えないくらいです。そんなことができるくらいの力を持っていたのは凄いのひとことですが、確かにそれでは敵も多かったのでしょうね。歴史に残る「黒澤作品」の陰には、こういう、数々の「献身」があるのです。 しかしながら、けっこうアバウトにやっている監督というのもいるみたいなのです。 マイケル・ベイ監督とレニー・ハーリン監督は、この特集のなかで、【過去には大ヒットを飛ばしたが最近はふるわない】なんて酷評されています。 作品の商業的な成功とリアリズムというのは、必ずしも一致するものではないとは思うのですが。 最近は、ビデオ、そして廉価なセルDVDの普及で、こういう「間違い探し」が行われる機会も激増してきているようです。以前「トリビアの泉」で、「ブルース・リーの映画の格闘シーンで、寝ている人がいる」というのが取り上げられて話題になりましたが、今のように「家で手軽に何度も観られる時代」でなければ、ほとんどすべての観客は、ブルース・リーに注目していて、そのひとりのエキストラの動きなどは気にとめることはなかったはずなのに。 この「めちゃくちゃな描写のつるべ打ち」なんていうのは、監督も狙ってやっているんじゃないかと錯覚してしまいますが。 現代に「黒澤イズム」を踏襲するのは商業的に難しいだろうし、逆に、あまりにアバウトな設定だとあきれられてしまいますから、結局のところは「バランス感覚」だということになるのでしょうね。
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