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2005年09月17日(土)
「新しいことやってます」という人は嫌いです。

「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)2005年10月号の恩田陸さんと鴻上尚史さんの対談記事より。

【鴻上:たぶん、チェーホフは役者も選ぶんだよね。小津さんの映画と同じで。シェイクスピアは少々下手な役者がやってもそこそこ観られるものになるんだけど、小津作品もチェーホフも、名優たちがやんないと目も当てられないから(笑)。あ、今その話をしながら、今回ぜひ聞きたかったことを思い出したんだけど、恩田さんって、物語ることが好きなの?

恩田:好きというか、ストーリーというものに興味があるというか……。私には、ストーリーにオリジナルなんかないという持説があって。つまり、人間が聞いて気持ちいいストーリーというのは、ずっと昔からいくつかパターンが決まってて、それを演出を変えてやってるだけだと。でも、昔聞いて面白いと思ったストーリーは今でもやっぱり面白い。それが不思議で面白いから小説を書き続けている、という感じなんですよね。

鴻上:つまり、同じパターンなんだけど演出を変えるというところに今の作家の使命があると?

恩田:そうですね。だから、私は新しいことやってますという人は嫌いなんです。それはあなたが知らないだけで、絶対誰かが過去にやってるんだからと。以前、美内すずえさんのインタビューをTVで見ていたら、『ガラスの仮面』は映画の『王将』が下敷きになっていると。で、今なぜ自分は漫画を描いているかというと、小さい頃、一生懸命夢中になって観たり読んだりしたストーリーを追体験したいからだと。それは、すごく共感したんですよね。】

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 ネットで文章を書いていると、とくに、時事問題などを扱っていると、この恩田さんが言われている「オリジナリティ」について、考えさせられることがよくあります。何かの話題に関して、自分で一生懸命に「オリジナルな意見」を書いたつもりでも、必ずどこかに同じような内容の文章というのが存在しているんですよね。小心者の僕は、そういうのを見て、自分が「パクリ」だと思われたら嫌だなあ、なんていう気持ちになるのですが、正直、このネットというあまりに広い世界で「オンリーワン」になるのは、ものすごく難しいというか、絶対に無理なんじゃないかなあ、と。
 恩田さんは、「創作」について発言されているのですが、「ストーリーにオリジナルなんかない」という達観は、創作者としては、やはり異質な部類なのではないでしょうか。みんなそれを感じながらも、「オリジナリティ」を追求しようとしているのでしょうかもしれませんけど。「それじゃあ、『演出家』じゃないか!」という見方もあるでしょうし。
 ただ、恩田さん自身は「新しいこと」なんて、そう簡単にできるものじゃない、と言いながら、根本は同じでも「新しい見せ方」というものに、ものすごくこだわっている人なのかなあ、という気がします。「新しいものなんてない」という認識は、本人の思い込みで「新しいもの」を書いている人よりは、はるかに「本当に新しいもの」に近づいているのかもしれませんし。
 まあ、こういうのも「人それぞれ」なんでしょうが、確かに、「セカチュウ」とか「イマアイ」なんていう大ヒット小説も、「どこかで読んだ話」だと散々言われていましたし、やっぱり、意欲的だけれど難しい実験作よりも「マンネリ化した王道」のほうが、多くの人に受け入れられるのは間違いないようです。だからといって「実験作」がない世界というのは、活気もないだろうし、あまりにも寂しいんですけどね。

 それにしても、『ガラスの仮面』が、『王将』を下敷きにしているのは、これを読んではじめて知りました。北島マヤは、坂田三吉だったのか…