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2005年08月17日(水)
宮里藍選手の「強さ」の源

「Number・633」(文藝春秋)の記事「全英直前インタビュー・宮里藍〜すべてを変えたあの日。」より。

(プロゴルファー・宮里藍さんがアマチュアながら初優勝を飾った2年前のミヤギテレビ杯のことを振り返った記事の一部です。)

【教員仲間の披露宴を抜け出して、13番ホールから駆けつけた東北高校ゴルフ部監督の川崎菊人は、隣にいた報道関係者に「絶対、決めますよ」と耳打ちした。
 沖縄から来た一人の少女は、名門ゴルフ部の雰囲気を変えてしまった。練習も食事も終えた後、月明かりだけを頼りにパターをうち続ける1年生の姿に、上級生たちも自然とひっぱられたのだ。その影響力をみてきた川崎は、男子も含めたゴルフ部の主将に宮里を指名した。女子が主将をするのは初めてのことだったが、まったく異論は出なかった。
「肉体的な資質ではあ、宮里より恵まれている部員はいます。でも、ゴルフの強さは結局、メンタルに左右されるんです」と川崎は言う。「彼女はゴルフで落ち込むことがあっても絶対に他のことに逃げない。調子が悪くても、一打一打を大切にする。その積み重ねだから、すべての経験が力になるんです」
 目の前で繰りひろげられる大混戦を実況していた三雲は、いつのまにか不思議な感情が胸を支配しているのに気づいた。
「藍さんのオーラに、ギャラリーや私たち放映スタッフも自然と魅きこまれていく感じでした。ギャラリーの多くは、自分の娘や妹が一人で戦っているのを見守るような気持ちで応援してたんじゃないでしょうか。私の仕事はもちろん、公正中立が原則なのですが、この時ばかりは『決めてくれ』と心のなかで祈っていました」】

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 宮里選手は、この「まっすぐなラインの2mのパット」を決めて、一躍、栄光への道を歩きはじめました。僕はそんなにゴルフというスポーツに詳しくないのですが、それでも、「宮里藍」という若き天才ゴルファーの名前は知っています。
 でも、この「若いのにすごい」というイメージの裏側で、宮里選手は、非常に濃密な時間を過ごしてきたのだなあ、ということを、この記事を読んで、あらためて感じました。
 「名門ゴルフ部」なんていうのは、腕に覚えがある人たちばかりが集まってくるところなのですから、みんなそれぞれプライドもあれば、「一癖ある」人も多いはずです。でも、その中で、宮里選手が示した「自分の努力する姿を見せることによる存在感」というのは、ものすごいものがあったんですね。高校生の男子なんて、ミエの塊みたいなもののはずなのに、それでも彼らに「女子が主将を務める」ということに依存が出なかったのですから。
 そして、「練習に対する姿勢」というものについてもあらためて考えさせられました。僕は学生時代に弓道をやっていたのですが、弓道というのも「メンタルスポーツ」なのです。どこに行っても、道具も同じなら、的の大きさや的までの距離も同じ。的に矢を1本当てられる力があり、同じことを延々と繰り返せれば、的に全部当てられるはずです。そこには、超人的な跳躍力とか瞬発力なんて、必要ないのに。
 でも、実際にその場に立つと、すべてが変わらないはずの状況の中で、自分の精神状態だけは変わってしまうのです。「これは当てなくては」というようなプレッシャーや、「たくさんの人が見ている」という緊張感。そんな中で、「いつもやっていることを同じようにやる」というのが、どんなに難しいことか!
 そして、いかに練習のときに本番と同じような精神状態に自分を置かずに、「練習のための練習」しかやっていなかったのか、ということを痛感させられるのです。「100本練習で矢を射たから、練習した」と自分では思っていても、それは、「ただ筋肉を動かしただけ」だったのですよね。もちろん、そういう筋肉の動きのトレーニングだって、全くのムダというわけではないのでしょうが、宮里選手の「濃密さ」とは、比べるまでもありません。
 「天才」というけれど、たぶん「天才」だけじゃあ、本当の頂点にはとどかない。僕には何の才能もないけれど、せめて、その「練習のときの姿勢」くらいは、少しでも見習っていきたいものです。