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2005年05月31日(火)
「レッサーパンダを『見せ物』にしないで下さい」

共同通信の記事より。

【動物たちを野生に近い形で見せることで人気の旭山動物園(北海道旭川市)がインターネットのホームページ上で、最近の起立するレッサーパンダブームについて「解剖学的に立つことは当たり前。(飼育の)プロが短絡的に『受けること』を続けていていいのか」と疑問を投げ掛けるメッセージを掲載したことが30日、分かった。
 メッセージは「レッサーパンダを『見せ物』にしないでね」との題で掲載。
 「レッサーパンダは外をのぞきたい、餌をもらえるかもと立ち上がっているだけで、その行為だけを抜き取って『すごいこと』と取り上げている。あの取り上げ方は芸であり、見せ物だ」としている。】

参考リンク「旭山動物園からの緊急メッセージ」

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 書いてあることは、本当に「その通り」なのでしょうし、動物の飼育を生業にしている人からすれば、ああいう形で動物が「見世物」にされるのは、悲しむべきことなのだろうと思います。それにしても、「動物園業界」なんて、そんなに広い世界でもないと思われますので、よくこんな他の動物園を批判するようなことを書いたなあ、なんてちょっと心配になってしまうくらいなんですけど。
 旭山動物園は、他の動物園とは違って「動物の本来の生態になるべく近い状態を来場者に見せる」というポリシーで、北海道の旭川という厳しい立地条件にありながら(まあ、敷地面積とか環境面では「恵まれている」面もありそうなのですが)、年々来場者数を伸ばしており、いまや、全国有数の来場者数を誇る動物園になりました。ここで働く人々にとっては「動物を見世物にして、ストレスを与えたり、生態について誤解を招いてしまうこと」は、ものすごく不本意なのだと思います。結局、そういう「ブーム」は、一過性のもので、赤字に苦しむ全国の動物園にとって、本質的な経営の改善にはつながらないものでしょうし。
 でも、僕はこんなふうにも思うのです。旭山動物園のメッセージは「正論」だけど、この「正論」は、所詮、「勝ち組」の余裕みたいなものではないのか、と。

 なんだかね、この記事を読んでいて、あの連敗記録の馬・ハルウララのことを思い出しました。
競馬の本質は「勝つこと」であり、連敗記録を更新することではありません。考えてみれば、「連敗」なんて、馬が無事で走り続けていること以外は、恥ずかしいことに決まっています。あのときも「連敗馬にあんなに人気があるのはおかしい」という意見もたくさん出ていましたし、僕にもそんな気持ちがありました。ものすごく強い馬、たとえばダービーを無敗で制したディープインパクトが評価されるのはわかるけれど、ただ走って、負けて、を繰り返す馬に、何の評価すべき点があるのか?と。
ハルウララの場合は、たぶん、多くの人が自分の中の「ハルウララ的なもの」を投影していたのだと思うのですが……
 ただ、関係者たちは、ハルウララに対して、複雑な思いを抱いているはずです。彼らは「強い馬をつくる」ために日夜努力しており、「連敗記録」なんて、目指しているはずもないし、そういう記録の「恥ずかしさ」というのは、外野である僕たちよりも「プロ」にとっては大きいものではないでしょうか。それでも、赤字が続く「地方競馬の現実」は、ハルウララという「ヒロイン」に頼らざるをえなかったのです。だって、ハルウララが出走するというだけで、レースの売り上げは大きく上昇し、高知競馬も一時的ながら黒字に転じたくらいだったのですから。たとえそれが一時的な「延命治療」であったとしても、それをやらなければすぐ死んでしまう人が、それを選択するを責められるでしょうか?

 「二本足で立つレッサーパンダ」である風太がいる千葉市動物公園も、入場者数減少に悩み、赤字を抱える地方動物園のひとつです。飼育係の人だって、最初はともかく、ここまでの騒ぎになれば風太にとってストレスになることは認識しているに違いありませんが、風太人気による入場者増などの「経済効果」を考えると、それが「一過性にしか効かない劇薬」だとわかっていても、「これを機会に、少しでも入場者数や興味を持ってくれる人を増やしたい」という気持ちになるのは、責められないのではないでしょうか。動物園で働く人たちにも「自分の生活」があるのだから。

 僕は動物園とか水族館という場所が好きで、よく行くのですが、たとえ大規模なサファリパークであっても、人工の環境で飼われている動物は、多かれ少なかれ「見世物」だと思うのです。「見世物じゃない動物」を見ようと思うのなら、それこそ、「自分が動物に襲われるかもしれない環境」に身を置かなければならないはず。「野生」って、そういうものじゃないの?
 旭山動物園が今までやってきたことは素晴らしいことだと思いますが、千葉市動物公園を「努力が足りない」と一方的に非難できるほどの「違い」はないような気がしますし、「昔ながらの動物園」が、そんなに悪い場所なのか、とも感じます。動物たちにとっては、どっちも似たようなものではないのか、とも思うし、各地の動物園が、みんな旭川の動物園と同じようにできるわけもなく、また、その必要もないでしょう。千葉市動物公園にだって、今後の改革の必要性や余地が十分あるとしても。

 だいたいさ、「関係者の方へ」って言うのなら、千葉市動物公園に直接メールを送ればいいのにねえ。なんだか、自分たちの優位をアピールしているみたいで、ちょっと感じ悪いです。