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2005年03月28日(月)
インターネットはテレビを殺すのか?

デイリースポーツの記事より。

【ライブドアによる買収騒動の渦中にあるフジテレビが27日午後4時から特番「ザ・リサーチャー2」で「ライブドアVSフジテレビ メディアはどうなる?」をテーマに生放送した。昨年10月の『新潟県中越地震』に続く第2弾。関東ローカルにもかかわらず、携帯、パソコンを通じた視聴者アンケートへの参加は2万1900件。それとは別に放送中だけでも電話やFAX、メールで1000件を超える声が寄せられるなど視聴者の関心の高さがくっきり表れた。
 渦中のフジがライブドアとの買収劇をメディア論にまで広げて視聴者に問いを投げかけた注目の生特番。フジの熱の入れようとは裏腹に、アンケートの結果は視聴者のクールでフラットな感覚が浮き彫りになった。
 フジテレビが速報性の高いネットアンケート方式「メルゴング」を使って行ったアンケートの設問は「ライブドア経営でニッポン放送の番組はうまくいくのか?」「テレビはインターネットに飲み込まれていくのか?」の2つ。
 2万1900人の答えは「つまらなくなる」の4862件、「変わらない」の2921件を抑え、「面白くなる」が5024件でトップ。さらに2番目の質問に対しても「完全に飲み込まれる」が1740件、「ある程度融合する」が4636件、「住み分ける」が2717件だった。アンケートの結果は、堀江貴文社長の主張、フジの主張の両方を精査、放送とネットの未来を見据えた視聴者の冷静な判断が表れた。
 このほかに放送中だけでも電話143件、ファクス131件、メール772件の視聴者からの意見が殺到。中には「テレビの在り方は変わってゆくべきだ」などの内容もあった。
 司会は小倉智昭と渡辺真理、ゲストにニッポン放送でレギュラー番組を持つエコノミスト・森永卓郎氏、ジャーナリスト・江川紹子氏、プロデューサー・テリー伊藤氏らが出演。堀江社長の映像、有識者の意見、放送法などを織り交ぜながら約1時間半にわたり放送した。同局広報では「タイムリーで、視聴者の関心の高い話題を取り上げた」とテーマ選択の理由を説明していた。】

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 この番組、昨日少しだけ観ていました。いや、せっかく真面目な企画なんだから、司会が小倉さんというのはいかがなものか、とか思いつつ。
 おそらくフジテレビ側としては、この特番で、「視聴者もライブドアのやり方に『ノー』を表明している!」というのをアピールしたかったのでしょうが、実際にやってみると、ことごとくアテが外れてしまったみたいです。
 ただ、この視聴者の判断が「冷静」なものなのか、「冷やかし」なのか、それとも、「思い上がっているテレビ局とその社員への鉄槌」なのかは、なんとも言えないところではあるのですけど。
 実際にネットをやっていて思うのは、やっぱりメディアの力はすごい、ということです。なんのかんの言っても、この「活字中毒R。」で採り上げている内容の多くは、大手メディアの「報道」に依存しているのだし、その内容が「ある程度のバイアスがかかっていたとしても、基本的には正しい」という前提があってこそ、成り立つものです。「イラクで戦争が行われた」というのも、みんなが「見た」のは、テレビの画面(あるいは、ネットの映像)を通してのものなのだから。医療報道に関しては、「頼むから、もっと勉強してから書いてくれ…」と思うことも多いのですが(こういうのは、おそらく、専門的な仕事をされている方は、みんなそうなのでしょうが)、だからといって、大手メディアを全否定してしまっては、「何を信じていいのかわからない」というのが、正直なところなんですよね。
 「自分の目で見たものしか信じない」というのは、ひとつのポリシーではあるのでしょうが、逆に「自分の目で見ることができるものの範囲」なんて、たかが知れています。メディアの発達のせいで、僕たちは、「隣人の病気」よりも、自分の人生にはほとんど何も影響を及ぼさないような、地球の裏側の人のことに、より詳しくなっていたりもするんですけど。

 「編集権」という言葉が話題になっていますが「ニュースを集める」というのは大変なのでしょうが、その「ニュースをどう伝えるか?何を見出しにするのか?」というのって、ものすごく大事なことだと思います。ネット上にも、例えば「かとゆー家断絶」という多くのアクセスを集めているニュースサイトがあるのですが、ネットの性質上、多くの人は、このサイトで、上から順番に項目を追っていくと思われます。そして、上のほうでは、「ちょっと気になる」という程度のニュースまでクリックしていた閲覧者も、これだけの量ともなると、最後のほうでは「よほど気になったものしか、クリックしない」ようになるのではないでしょうか(少なくとも僕はそうです)。「並べる順番」というのは、非常に重要なファクターであり、そして、その記事を「どういうふうに紹介するか」とか「どんな見出しをつけるか」によって、観る側の反応というのは、全然違ってくるはずです。僕らは普段は、そういう「送り手の思惑」に関しては、意外と無頓着なものなのですけど。
 堀江社長は、「視聴者(あるいはリスナー)の興味があるものをネットで投票してもらって、多い順に取り上げていく」と仰っておられましたが、実際のネット人口から考えると「若者の好み」に偏ってしまうだろうし、地味なニュースというのは、どんどん埋もれてしまうことでしょう。そもそも「マスコミは偏っている面がある」と思うけど、ネットもけっこう嘘つきだし。たとえそれが、意図的なものではないとしても、現在のネットというのは、ある程度の「慣れ」とか「分別」がないと、足元をすくわれる危険が非常に高いように思えるのです。堀江さんだって、「仙台ジェンキンス」を忘れたわけじゃないでしょうに。
 僕だって、既存のメディアに100%満足していないし、1局くらい、ライブドアにやらせてみても面白いんじゃない?とも思うのです。ここで堀江社長を応援している人の中には、「いい気になっているテレビ局の連中を困らせてやりたい」と考えている人も少なくないような気もするし。
 でも、変わっていくことはあるとしても、テレビはそう簡単には無くならないだろうなあ、とも思うのですよ。世の中には「誰か分かってくれている(はずの)人に、ニュースの順番を決めてもらいたい」とか「あまり他人と議論したくない」とか「ただ、受身でボーッとしながらでも楽しめるものの方がいい」という人は、確実にいるだろうし、もしかしたら、そちらの人のほうが、サイレント・マジョリティなのかもしれません。
 現在の「巨大メディアと、巨大メディアに対するチェック機構としてのネット社会」という構造は、実は、ものすごく合理的なもので、将来的にどちらか一方に統合されるとしたら、それはそれでものすごくイビツなものになるのではないか、とも思いますし。「テレビでもネットでも(あるいはラジオでも新聞でも)選べる状況」というのが、いちばん健全なはず。

 病院勤めをしていると、ずっとテレビを観ているあまり動けない高齢の患者さんと接する機会というのは、けっこう多いのです。時代劇や大相撲中継を日々の楽しみにしている先輩たちの姿は、未来の自分のような気もするし、彼らに「ネット社会への適応」を過剰に望むのは、あまりに酷というものではないでしょうか。

 なんでも「自分で選べる」って、実は、すごくめんどくさいことでもあるんですよね……