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2005年02月04日(金) ■ |
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「お前の自慢話は、もう聞き飽きた!」…って言ってみたい。 |
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My First BIG『美味しんぼ〜愛が薫る!真摯なうどん・そば編』(小学館)の中の原作者・雁屋哲さんのコラム「美味しんぼ塾」より。
【まあ、素人が自分の打つそばに色々講釈をこねるのは愛嬌だが、これが本職のそば職人に講釈を聞かせられながら食べるのはたまらない。一度そういうそば屋に出会ったことがあって、確かにその男のそばは美味しいのだが、講釈がたまらなかった。それも、他のそば屋の悪口を言い続けるのには閉口した。自分の打つそばに比べて、いわゆる有名店のそばがどんなに下らないものであるか、そばを作りながらえんえんとしゃべり続けるのである。食事に一番合わないのが他人の悪口である。(私は自分が他人の悪口を言う分には気にしないが、他人が他人の悪口を言うのを聞くのは大嫌い)そばの料金は払っているのだから、講釈無しで静かに心平穏に食べたい物だと思う。】
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いやもう、全くもって、その通りだと思います。ああいう「講釈をしたがる料理人」というのは、どんなに美味しいものを作っていたとしても、僕はちょっと遠慮させていただきたいです。まあ、そういう「料理語り」の元祖とも言える「美味しんぼ」の原作者にそんなこと言われても…という気もしなくはありませんが。 でも、この手の「語りたがる人」というのは料理人に限らず、世間のいろんなところに生息しています。それは、タクシーの中だったり、病院の中で白衣を着ていたり。そして、彼らが語る内容のほとんどは「自慢話」なのです。 彼らは、いつでも無遠慮に僕たちの前にあらわれて、唐突に言葉をかけてきます。そして、何気ない世間話のはずだったのに、話題はなぜか彼自身のことや彼の業績、彼の素晴らしい体験、置かれた立場の難しさ、苦労話になっていきます。そして、最初は仕事の手を止めて相槌を打っていた僕は、自分の仕事が進まないし、他人の自慢話なんて聞かされても面白くもなんともないですから(というか苦痛だし)、なんとか話をやめてくれないかな、と、しびれを切らせて、わざとらしくカタカタとキーボードの音を響かせたりするわけです。 でも、ようやく話が終わった…と思ってホッとした瞬間に「そういえば…」と、また苦痛な時間が始まることがほとんど。
まあ、それだけ一生懸命話につきあってあげれば、少なくとも自分に好感は持ってくれているよな…とか思いますよね、普通。 ところが、そういう「語りたがる人」の多くは、「人の話を聞く」というのがどうも苦手なようだし、「相手の都合を考える」なんてことも、あんまり意識していないようなのです。こちらが仕事中に手を止めて話につきあっているにもかかわらず、自分が話したいことを話し終えるか、自分に何か用事ができたとたんに「長話してごめんね」なんて態度は全然見せず、全然仕事が終わっていない聞き手を残してさっさと帰ってしまったり、自分の仕事を黙ってはじめてしまいますし。こちらとしては、それでも正直「助かった…」とか思ってしまうくらいなのですけど。 たぶん、こういうのって、「話してあげている」というふうに、当人は思っているに違いありませんし、無視している人に「失礼な」とか怒りはじめる人までいます。周りの人は、あなたの自慢話を聞くためにこの世に存在しているわけじゃないんだってば!
しかしながら、こういう場合って要領が良い人は、その「語りたがる人」が近づいてくると、サーッと「現場から緊急避難」してしまい、「聞き手」は、いつも同じ人になってしまいがちです。そして、「語りたがる人」は、いつも確実に「聞いてくれる相手」を捕捉してきます。まるで、センサーが付いているかのように。 僕は基本的に他人に嫌われるのが怖い性質の人間なので、ついつい、「ちゃんと話し相手になってあげなくてはな」と真摯な対応を心がけてしまうのですが、結局残されるのは、全然進まなかった仕事と、「またつまらない自慢話を聞かされてしまった…」という精神的苦痛だけだったりするんですよね。向こうは「聞いてくれてありがとう」なんて、全然思ってもいないのに。 そしてさらに「いい人を演じようとしてしまう自分」「要領が悪い自分」に対する自己嫌悪の感情も加わって、この哀れな「聞き役」は、どんどん悪循環に陥ってしまうのです。
「お前の自慢話は聞き飽きた!」なんて言えないのはやむをえないとしても、 「今はちょっと忙しいから」 「気が散るから、話しかけないで」 そんなふうに言えたらなあ、と僕はいつも、弱気でええかっこしいの自分を責めています。
「他人の自慢話を延々と聞かされる立場になってみろよ…」といくら思ってみても、「自慢話ばかりする人」って、そもそも、他人の話をまともに聞いていないから、そんなふうになってしまうのでしょうしね。
本当は、そばに関していくら言葉で語るよりも、黙って美味しいそばを目の前に出すだけのほうが、はるかに説得力があると思うんだけど……
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