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2005年02月01日(火) ■ |
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自分に「レッドカード」を出した男 |
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日刊スポーツの記事より。
【イングランドのアマチュアリーグで、主審が自分を退場処分にする珍事があった。ノーサンプトン州リーグの試合で主審を務めたアンディー・ウェイン審判員(39)が、もみ合いの中で選手に威圧的な態度を取ったことを反省し、自らレッドカードを提示してピッチを去ってしまった。この審判員は試合前日に義父を亡くし、妻の重病も発覚。当日にも友人の急死が明らかになるなど不幸続きで、試合を公正に裁ける精神状態ではなかったという。州協会には「時間が欲しい」と、進退伺を出している。】
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この記事を読んで、なんだかいたたまれなくなりました。ウエインさんは、とても真面目な人だったのでしょうね。日本人の感覚からすれば、「試合前日に義父を亡くし」というような事態なら、「忌引」として仕事をしなくてもいいと思うのですが、それに加えて妻の重病と友人の急死ですから…ウエインさんは、まだ39歳だから、奥様や友人も、そんな急に亡くなられたり、重病になるような年齢でもないはずです。それはもう、普通の精神状態ではいられなかったでしょうね… もしこれがもっと大きなプロリーグならば代わりの審判だって手配しようがあるのでしょうけど、こういう「地域密着型」のリーグでは、なかなかそういうわけにもいかないのでしょう。ウエインさんは、自分の身に降りかかったあまりにも不幸出来事を抱えつつ、それでも一度審判としてピッチに立ったからには、公正なジャッジをしなくては…と心に誓っていたことでしょう。それでもやっぱり、ガマンしきれないものがあって、それを自分で恥じて、自ら「審判としての自分」に、レッドカードを出したのです。それはもう、選手や観客、周囲の人たちは、何が起こったのかわからなかったでしょうけど。 まあ、「どうしてそんな人に審判をさせるんだ、無責任な!」と言う人もいるかもしれませんが、そう簡単に代わりが見つからない、なんてことは、けっして珍しくはないはずです。「そういう事情なら、自分が代わりに」なんて言ってくれる人は、実際に頼んでみればいるのかもしれませんが、「あんまり急な話だと、迷惑かな…」なんて、自分が落ち込んでいるときは、取り越し苦労だってしてしまうかもしれないし、代わりを探す心の余裕もなかったのかもしれないし。 そう考えたら、「自分へのレッドカード」というのは、ウエインさんにとっての「こんな悪夢のような状況からは退場したい」という願いのあらわれだったのかもしれません。
きっと世の中には、「自分にレッドカードを出せなかったウエイン審判員のような人」というのは、たくさんいるのだろうし、僕の人生の中でも、何度もそういう状況の人たちとすれ違ってきたのかもしれないな、と、この記事を読んで思いました。ウエインさんのような人はけっして「歴史上まれ」なわけではないだろうから。 でも、僕はその人たちのことを全然記憶にとどめていません。ウエインさんにしても「自分にレッドカード」という「奇行」がなければ、「辛いのをガマンして審判をやった人の話」は、ごく身近な人しか知らなかったはずのエピソードでしょう。
「なんであの人、あんなにイライラしているんだ?」 「笑顔がなくて、感じ悪い!」 そんなふうに思ったときには、このウエインさんのことを少しだけ思い出してみるべきなのでしょう。彼らは、「笑わない」のではなく「笑えない」原因を心に秘めながら、一生懸命現実に立ち向かっているのかもしれないのだから。
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