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2005年01月13日(木) ■ |
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「発明対価」をめぐる仁義無き戦い |
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徳島新聞の記事より。
【青色発光ダイオード(LED)の発明対価をめぐる訴訟の控訴審が十一日に東京高裁で和解したことを受け、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授(50)と日亜化学工業(本社阿南市)の小川英治社長(67)が十二日、それぞれ記者会見した。「司法は腐っている」と高裁を痛烈に批判した中村教授に対し、小川社長は「一人による発明ではないことが認められた」と納得の表情をみせた。
◆不満足 怒り心頭 中村教授、司法批判
中村教授は和解を受けて、急きょ帰国した。「まったく不満足。怒り心頭です」。東京の霞が関ビルの一室で、そう切り出した中村教授の記者会見は、東京高裁での和解内容、日本の司法に対する憤りに満ちた激しい批判、非難の言葉が相次いだ。
「(相当対価の)六億円がどこから出てきたのか分からない。まず六億円ありきの和解案」「裁判官は提出した書面さえ読んでないのじゃないか」。次から次へと批判の言葉をまくしたてる中村教授。高裁への不信感をあらわに声を荒げ、不満を爆発させた。
和解案を承諾した理由については「高裁に判決を求めても最高裁で争っても(和解案を)上回る可能性はないようだから」と語る。「地裁判決からすれば和解内容は百パーセント負け。1%でも勝つ可能性があれば、最高裁に行きたかったが弁護士にそれもないと言われた」と無念さをにじませた。
和解内容への怒りは日本の司法制度の在り方にも向かい「裁判は国民にとって(紛争解決の)最後のとりで。それが腐っていたらどうしようもない」と激しい口調で非難を続ける。米国での訴訟経験を踏まえ「(日本の司法制度は)企業側が持っている書類や証拠を開示させることができず、個人が企業と対等に戦えるものではない」と改革の必要性を訴えた。
◆対価でなく経費 日亜社長、時折笑み
「当社の主張が完全に認められた。(青色LEDの開発は)一人の天才が仕上げたように流布されているが、多数の技術者が参画した成果と認められたことで、当社の若い技術者の名誉が回復された」。阿南市内の日亜化学工業本社で開いた記者会見で、小川社長は時折、笑みも浮かべながら満足そうな表情をみせた。
「和解でなく高裁判決という選択はなかったのか」との記者の問いには「(中村氏から別件の訴訟が)次々と起こされることが予想され、前向きの仕事に取り組みにくくなる。会社経営という点から、訴訟をいったん終わりにして本業に力を注ぎたいと考えた」と回答。「私としては(和解金は)発明対価というより、今後問題を起こさないための経費と考えている」と淡々と語った。
自らも技術者出身らしく「ほとんどの技術者は仕事に興味を持ち、技術的成果に喜びや楽しみを感じている。単純に金銭に置き換える人はそうはいない」と中村氏を意識してか、強い口調で言い切った。
一方で「事業成果は全従業員の働きの中から出てくるもので、発明対価を正確に算出するのは不可能。不可能な事柄を対象にしている特許法そのものに問題がある。今回の訴訟でクローズアップされたことで、今後は正常化していくのではないか」と指摘した。】
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昨日「これを言うために、わざわざアメリカから日本に帰ってきた」という中村教授の会見の一部ををテレビで観たのですが、そのときの僕の感想は、「ああ、この人はきっと優秀な人なんだろうなあ。でも、この人と一緒に仕事をするのはキツイだろうなあ…」ということでした。現在基礎系の研究職にいる(まあ、腰かけ研究者みたいなものなのですが)僕としては、あの中村教授のエキセントリックな会見は、「こういう人、確かにいるんだよねえ。優秀で業績も申し分ないけれど、なんというか、取り付く島がないような感じの人…」と感じてしまうものだったのです。その瞬間は、「発明対価」の妥当性とかはさておき、「こういう難しそうな人を研究者として雇用し続けて結果を出させた日亜化学工業って、けっこう寛容な会社だったのではないかなあ」とか考えてみたり。 もちろん、そういった面以上に、研究開発者としての能力で、企業にメリットをもたらしてもいたんでしょうけど。 その一方で、例えば簡単な実験をするにしても、企業の研究室であれば、研究のサポートをしてくれる人や、器材を用意してくれる人などがいるわけで、コストも企業が負担していたのでしょうし、中村教授が自宅でひとり引きこもって出した成果でもないのだから、この人ひとりだけが「対価」を受け取るのはどうなのか?とも思っていました。その「青色ダイオード研究開発チーム」そのものが、会社に対して対価を求めたのであれば、僕はもっと好感を持てたのかもしれません。そういうのは、いかにも「プロジェクトX」的というか、日本人好みではありますが。
中村教授が発明した「青色LED」というのを僕が知ったのは、たぶんパチンコの雑誌だったと思います。【それまで盤面の電飾には青色の光が使えなかったのだけれど、最近の研究の結果青色のダイオードができた。でも、まだその青色のダイオードは、他の色のものに比べて1個が10倍くらいの価格がする】というような話でした。僕はそのとき、「青いバラも不可能なんて言われているから、青という色は、人間にとって再現するのが難しい色なのかもしれないな、と思った記憶があります。最近では、僕が考えるような「青」とはちょっと違うのですが、「青いバラ」も開発されたみたいなんですけどね。 そういえば、最近信号機が本当に「青」になったのは、この青色ダイオードのおかげなのだそうです。
しかし、一晩経って考えると、中村教授御本人のキャラクターへの好みはさておき、今回の訴訟が研究者にもたらしたものは、けっして少なくないとも思います。そもそも、中村教授が最初に受け取った「報奨金」は、わずか2万円だったそうで、その研究の成果がもたらした利益を考えれば、あまりに低すぎる評価だと感じたのはまちがいないでしょう。たぶん、僕が同じ立場でも怒ります。 しかし、昨日観たテレビ番組では、ハードディスク内蔵DVDを開発した人は、その電器メーカーの社長よりも高い給料をもらっているのだそうです。もちろん、日本の企業の社長基準ですから、そんなビックリするような金額ではないとしても、「成功報酬」という面では、かなり変わってきているのでしょう。僕が中学生のころ、ファミコンが大ヒットしていた任天堂は、社員のボーナスが36か月分(!)と言われていましたから、こういうのは、一概に「日本企業は渋い」と言えないのかもしれないし。ただ、アメリカのように「一攫千金」というケースはないのは確かみたいです。 「企業にとって、社員は駒」という意識に対して、200億円という強大なアンチテーゼを突きつけたという点では、やはり、この訴訟はものすごく意味がありそうです。僕は正直「個人に200億円も払ったら、日亜化学工業は潰れるのではないだろうか?」とか心配したくらいですから。実際に潰れはしないまでも、こんな訴訟を起こされるのは企業にとっても大ダメージでしょうから、優秀な技術者が大事にされるようになるきっかけには、なっていると思います。
小川社長の【自らも技術者出身らしく「ほとんどの技術者は仕事に興味を持ち、技術的成果に喜びや楽しみを感じている。単純に金銭に置き換える人はそうはいない」と中村氏を意識してか、強い口調で言い切った。】というコメントも、会社のトップとしての発言であると同時に、僕もこういう「技術者」というのがたくさんいて、日本企業の開発力を支えているのだということもわかるのです。僕の周りにも、そういう人はけっこういますから。 考えてみると、研究者にとっての支えというのは「研究そのものが好き」か「名声」か「お金」しかないわけです。日本の民間企業では、金銭的に若干恵まれる代わりに、大学などの公的機関に比べて「名声を得る」というのはなかなか難しいことですし、中村教授が「自分への客観的な評価」として「お金」を選んだのは、自然なことのようにも思えます。「不満なら最後まで闘うべき」なのにもかかわらず、こうして文句を言いながらも和解に応じた背景には、長引く裁判の煩わしさというのもあるでしょうし、この裁判によって、彼自身の「名声欲」というのが少し満たされたという面もあるのではないかなあ、という気もするのです。僕の勝手な解釈ですが、この人は、実際に8億円もらうことよりも、「あなたの研究には、600億円の価値がある」と言われることのほうが嬉しい人なのではないでしょうか。
中村教授は、「能力があって、チャンスが欲しい人にとっては、アメリカのほうがいい。適当にやりたい人にとっては、日本のほうがいい」と会見で言われていました。正直鼻につく言い方ではありますが、実際にアメリカで研究者としてやっていくのは「常に具体的な結果を求められる」という点で日本でやっていくよりはるかに厳しいところがありますし、この人はこの人なりに、日本の良さみたいなものも理解しているのでしょう。 だいたい、中村教授のインタビューの中には、考えさせられる言葉もたくさんあったのに、テレビで採り上げられたのはエキセントリックに「日本の司法は腐っている!」というシーンばかりなのですから、こういうのも「出る杭は打たれる文化」と言えそうです。 【「(日本の司法制度は)企業側が持っている書類や証拠を開示させることができず、個人が企業と対等に戦えるものではない」】という言葉なんて「日本の司法は腐っている!」なんてセンセーショナルではあるけれど内容は全然ない言葉よりも、はるかに「伝えられるべきこと」だと思うんですけどねえ。
まあ、「優秀な人材」=「万人に愛される人間」とは限らないのですよね。研究の成果とか作品が素晴らしさと「八方美人」とは、相容れないような気もするし、他人にマネできないようなことをする人は、多少なりとも「常軌を逸している」のが、むしろ当然なのかもしれません。
でも「発明対価よこせ!」というのは、ある意味「普通」かな…
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