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2004年12月20日(月)
「アルコール・ハラスメント」の伝統

熊本日日新聞の記事より。

【一九九九(平成十一)年、熊本大医学部漕艇(そうてい)部の新入生歓迎会で一年生の吉田拓郎さん=当時(20)=が酒を飲んで死亡したのは、上級生らが飲酒を強要し適切な処置を怠ったためとして、拓郎さんの両親が当時漕艇部長だった教授や上級生ら十九人に計約五億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十七日、熊本地裁であった。永松健幹裁判長は「死因について急性アルコール中毒だったとは認めがたい」として教授らの責任を否定、両親の請求を棄却した。
 判決によると、拓郎さんは九九年六月、熊本市内で開かれた新入生歓迎会に参加。二次会の居酒屋で焼酎などを飲んで酩酊(めいてい)状態になり、終了後に上級生らが別の一年生部員のアパートに運び込んで寝かせたが、翌朝死亡した。
 訴訟で両親側は「上級生らは二次会で次々に焼酎の早飲み競争を仕掛けて、拓郎さんを急性アルコール中毒によるこん睡状態にさせた。危険な状況だったのに病院に搬送するなど適切な処置を怠った」と主張。
 これに対し、被告側は死因はアルコールに起因しない重症急性膵(すい)炎だったと反論した上で「一部に飲み比べはあったが、一年生は自発的に参加した。拓郎さんは酔って寝込んでいただけで危険な状態ではなく、死亡は予見できなかった」と争っていた。
 拓郎さんの死亡をめぐっては、両親が九九年十二月、教授や上級生ら十九人を民事提訴。同時に、このうち十六人について傷害致死罪や保護責任者遺棄致死罪などで刑事告訴したが、熊本地検は〇二年十二月、全員を不起訴(嫌疑不十分)処分にしている。 】


参考リンク:熊本大学漕艇部で、急性アルコール中毒死事件!(事件のあらましについて書かれているサイトです)

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 上記参考リンクによると、亡くなられた吉田さんについて【前夜、医学部学友会漕艇部の新入生歓迎コンパ(二次会)で、医学部上級生とOB医師から焼酎の「バトル(早飲み競争)」を次々としかけられて、1時間ほどの間に、25度の焼酎を8合以上(血中濃度5.5mg/mlから推定)飲まされました。】そして、【死体検案時の血中アルコール濃度は5.5mg/ml。法医学書では4.5mg/ml以上で死亡としており、驚くべき高濃度でした。その後の再検査では、さらに高い数値(大腿部の静脈血で8.1mg/ml、脳脊髄液では9.6mg/ml)が検出されました。 】という結果が出たとのことでした。1時間に25度の焼酎を8合も飲ませるなんて、それはいくらなんでも無茶苦茶です。とはいえ、そこは酔っ払いの集団でもありますし、おそらく「集団の力」というやつで、参加者はみんな「とにかく飲め!」という雰囲気で、新入生たちも、新しい部活への「通過儀礼」として、この手の行事に参加していたのでしょう。ほんと、そんなことで死ぬ必要なんてないのに…という、バカバカしい「伝統」なんですけど。
 しかしながら、僕も大学時代に、これほどハードではなくても、こういう「酒による通過儀礼」に強制される側としてはもちろん、強制する側としても参加した経験がありますから、あまり彼らを非難するわけにもいかないだろうな、とも思うのです。確かにああいう「場」にいると、(とくに新入生であれば)「避けられない雰囲気」というのもあるし、1時間に8合では、「危険な兆候が出る前に、飲みすぎてしまった」のかもしれません。残念ながら酔っ払いという人種は、相手の血中アルコール濃度に注意しながら飲ませるなんて芸当はできない人がほとんどですし。

 僕は、この事件に関しては、やっぱりその場にいた人間に責任があると思います。だって、「無理強い」したのは事実だし、飲ませたあとに適切な処置をしていなかったのも事実。
 しかしながら、だからといって、これが「刑事責任」とか「5億円の慰謝料」にあたるか、といわれると、ちょっとそこまではどうかな…とも思うのです。もちろん「道義的責任」というのはあるけれど、彼らにとっては、「いつもと同じ新入生歓迎コンパ」をやっただけ、という感じなのでしょうから。そして、こういう「危険な通過儀礼」というのは、現在でもいろいろな大学で行われており、病院で当直などをしていると、「どうしてこんなになるまで飲ませるんだ、ほんとに死ぬぞ!」と怒鳴りたくなるような例には事欠きません。一緒にバカなことをやるというのは、結束を深めるには良い方法なのかもしれませんけど、命を賭けてまでやることじゃないだろうと思うんですけどねえ。「医学部なのに情けない」という面はありますが、実践的な応急処置なんて、学生レベルではまず不可能です。この例では「救急病院に連れて行くように」とOBに指示されたそうですが、結局、被害者を連れて行った先輩が、自分の判断でそのまま「介抱部屋」に連れていった、とのことですし。
 それでも、こういう「飲み会で潰れた話」なんていうのを「武勇伝」にしている先輩というのは、けっして少なくはないんですよね。本来、「酒に強い」なんてことには、酒代がかかるくらいのもので、何のメリットもないはずなのに。

 結局、「日本人は酔っ払いに甘い」としか言いようがなく、「無礼講」とか「酒中別人」という概念は、まだまだ強いような気がします。そして、酔っ払っての犯罪(飲酒運転除く)は、「責任能力の低下」として、情状酌量されてしまうのです。そんなの、好きで飲んでいるんだから、自分でやったことにも責任を取ればいいと思うんだけどなあ。
 それでも、日本中でこの手の事故というのは、毎年起こっていて、医者もみんな憂鬱になっているのです。急性アルコール中毒ほど、診ていて虚しくなる「病気」ってないからさ。
 この事件に関しては、せめて、「同じ轍を踏まない」ということは、みんな頭に入れておくべきことでしょう。死んでしまった人はもちろん、死なせてしまった方だって、一生の心の傷になるだろうし。

 けっして「酒嫌い」ではない僕としては、「誰が悪いのか?」と言われると、「正直、運が悪かったのかも…」と答えてしまいそうで、反省しなくてはならないと、あらためて考えているのです。