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2004年09月11日(土) ■ |
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身軽になれない、心配性のかばん |
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「あるようなないような」(川上弘美著・中公文庫)より。
【心配性なので、かばんにたくさんの荷物を持って、歩く。 ハンカチは二枚、ちり紙も二包み、電車の中で読む本二冊、夏ならば扇子に黒い眼鏡、日傘にてんかふん。 持って歩いているものを実際に使うことは、あまり、ない。天瓜粉なんか、実は一回も使ったことがない。いったい外出途中のどの場所で、天瓜粉をはたくことができるというのか?そのくせ、財布だのくちべにだのをかばんに入れ忘れたりする。財布を忘れて駅から引き返したことは、この夏だけで四回あった。いったい何を考えているのやら。
かばんに多くのものを入れておかなければ困る心もちになる人は、あんがい多いようで、たとえばある知り合いは、どこに行くのにも四角い大判のアタッシェケースを持ち、その中には髭剃りとホチキスとウォークマンと時刻表と胃薬とかゆみどめと本三冊と雑誌二冊とはさみと簡易ワードプロセッサーと電話と傘と下着一組とのりとサインペン四本とものさし二組とねじまわしを常備していると言っていた。 驚いて聞くと、 ねじまわし。 と落ち着いて答える。 いざというときにあると役に立つんですよ、ねじまわし。持ってる人少ないですからね。そんなふうに答えて、知り合いは、アタッシェケースを地面に置き、その上に涼しい顔で座ったりしたものだった。】
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いや、あると確かに便利ですよ、ねじまわし。僕の場合は、眼鏡常用なので、眼鏡のゆるんだねじを締められるような、小さな精密ドライバーを常備しています。 「あると確かに便利」って書いたけど実際に役に立った記憶は、今までの人生で何度かしかありませんけど。
「かばんの中身」って、確かに性格があらわれるような気がします。 僕も心配性なので、いろんなものを余計に入れすぎてしまって、大変な思いをすることが多いのです。洋服は汚れるかもしれないから、宿泊の日数より少し多めにとか、洗面用具とか、携帯ゲームとか、旅先で勉強するための専門書とか… 結果的には、ものすごい重さの荷物になってしまいますし、そのわりには、趣味のものや「ヒマつぶしのための娯楽用グッズ」を選ぶのが優先で、「旅行には必要だけど、僕個人としてはあまり興味の持てないもの」である生活用品を入れ忘れていたり、ひどいときには飛行機のチケットやパスポートなどを机の上に置きっぱなしで、本でパンパンになったバッグを持って出発しようとしてしまったりするわけです。 「旅行に行くときに、何をまず準備しようとするか?」というのは、ものすごく人生観を反映するような気がするんですよね。 着る服を選ぶのに時間をかける人もいるでしょうし、まず財布やパスポート、という人もいるでしょうし、デジカメの人もいれば、僕のように携行していく本をまず選ぼうとする人間もいるみたいだし。
しかしながら、僕の場合には、そうやって「これは今回の旅行向き」と心を篭めて選んだ本たちは、たいがいバッグの底に置きっぱなしになっていて(そもそも、その本を全部読んだら、旅行の自由時間が全部潰れてしまうくらいの量になっていたりもするので)、帰りは土産物などでさらに重くなった荷物を抱えながら、「なんで、こんな要らないものをたくさん持ってきたんだろう…」と後悔することの繰り返し。 それでも、一昔前に比べれば、日本国内ならコンビニでも雑誌やマンガは買えますし、だいぶ荷物は軽くなったんですけどね。 まあ、究極的には「財布さえ忘れなければ、なんとかなる」のです。
実際には、わかっているつもりでも、毎回帰りの飛行機の手荷物検査場で、電源すら入れなかったパソコンを抱えて溜息をついているのだけれど。
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