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2004年08月03日(火) ■ |
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375分の5の「人食い鮫」 |
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「シドニー!(1)コアラ純情篇」(「村上春樹著・文春文庫)より。
(村上さんが、オーストラリアのシドニー水族館で考えたこと)
【鮫もうようよといる。全長三メートルもある「グレイナース・シャーク」がガラス張りの回廊のまわりをゆうゆうと遊泳している。見かけはジョーズそのままでおっかないんだけど、実はこの鮫は人を襲わない。しかし見かけの恐ろしさの故に、オーストラリアではつい最近まで危険だと信じられていた。 オーストラリアではグレイナースを殺すと、巨額の罰金が科せられる。しかしこんな怖い外見の鮫が網にかかったら、殺したくなるのが人情だろう。オーストラリアで交通事故で死ぬ人は年間5千人だけど、鮫に襲われて死ぬ人は平均して約一人。一般に知られている三百七十五種類の鮫のうちで、人を襲うのはたった五種類だけ。だからそんなに怖がることはないんだよ、と言われても、泳いでいる最中に巨大な鮫に近寄ってこられて、「大丈夫、こいつはその五種類に入ってないもの」とか、きちんと見分けられるような冷静な精神を持った人は世の中にそれほどいないはずだ。むしろ普通の人は恐怖のあまり心臓発作を起こすだろう。 鮫は一般的に信じられているほど食欲旺盛ではない。二日に一度餌を与えるだけでじゅうぶんだ。だからシドニー水族館では、それぞれの鮫がちゃんとご飯を食べていることを確認するために、ダイバーは毎回手から直接魚を食べさせている。】
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つまり、「ダイバーがきちんと確認しておかないと、放っておいたら餌を食いはぐれるくらい、鮫というのは「食に無頓着な生き物」であるということなんでしょうね。 しかしながら、僕ももし海で鮫に会ったら、たぶんパニックに陥りまくると思います。あのザラザラした肌の感じとか、鋭角なフォルム、感情の無い眼、鮫というのは、基本的に人間にとって、理解しかねる生き物のような気がします。 実際のところ、僕は鮫に親しく接したことはありませんから、「本当に彼らが凶暴なのかどうか?」なんてことは体験したこともなく(体験したくもありませんけど…)、彼らに対するイメージは映画「ジョーズ」などによるものが大きいのです。鮫たちにとっては、スピルバーグ監督は「天敵」といえるかもしれません。 この村上さんの文章を読むと「鮫より車のほうがはるかに怖いよなあ」なんて僕も思うのですが、でも、実際問題として、僕の中の「鮫差別」が解消されるかというと、やっぱりそんなこともなさそうです。 375分の5の確率であっても、見分けようとしている間にガブッとやられてはかなわないですし。
結局、どんなにこうやって「知識」を仕入れても、僕の中での「鮫」は、「積極的には関わりたくない生き物」であることはまちがいないし、「見かけが怖い」とか「怖そうなイメージを持たれている」というのは、なかなか一筋縄では解消できないものだよなあ、なんて思います。 一度「差別」されるようになってしまうと、その状態から抜け出すのって難しいですよねえ。
鮫の立場としては、人間に芸とかさせられているイルカを見て、「俺たちはヘンに愛されなくて良かった…」なんて内心喜んでいるのかもしれませんけど。
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