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2004年06月15日(火) ■ |
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養老先生が「科学者失格」の烙印を押された理由 |
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時事通信の記事より。
【市民団体「タバコ問題首都圏協議会」(渡辺文学代表)が5月31日の世界禁煙デーに合わせて実施した「タバコをやめさせたい有名人」を選ぶコンテストの結果がまとまり、今年はタレントの和田アキ子さんが1位に選ばれた。2位、3位にはそれぞれ常連の木村拓哉さん、明石家さんまさんが入った。 和田さんは昨年の3位からトップに浮上。応募者からは「顔が広そうなので、和田さんがやめれば芸能界の喫煙率が下がるはず」とのコメントが寄せられた。木村さんに対しては「これから世界で活躍したいなら禁煙しないと」、さんまさんには「トーク番組でひっきりなしに吸っている。人気者なので、やめれば影響力が大きい」との声があった。 4位以下はビートたけしさん、宮崎駿監督、松本人志さんらで、8位に養老孟司さんが初登場。「ニコチン依存では科学者としての信用が薄い。禁煙してニコチンの真実を語ってほしい」と要望が付け加えられた。島田紳助さんは本来3位の得票を得たが、今年から禁煙しているためランキングから除外された。】
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要するに「社会的に影響力がありそうな、タバコを吸っている有名人ランキング」みたいなものですね。有名人っていうのは、それはそれで辛いものだなあ、なんて思ってしまいました。 「タバコは体に悪い」というのは周知の事実なんだから、本人たちも「わかって吸っている、もしくは止められない」はずなのにね。 まあ、僕自身はタバコは吸いませんし、タバコの煙は苦手です。最近の嫌煙運動で、交通機関でタバコの煙を吸って、ただでさえ酷い乗り物酔いがさらに酷くなることがなくなったのは、心からありがたいと思っています。立場上他人に「禁煙してください」という機会も多いですし。 でも、このアンケート結果を見ると、なんだかなあ…という気もするのです。 とくに、【8位に養老孟司さんが初登場。「ニコチン依存では科学者としての信用が薄い。禁煙してニコチンの真実を語ってほしい」と要望が付け加えられた。】なんてくだりでは、「養老先生も大変だなあ」と僭越ながら同情してしまいます。 養老先生は、脳の研究の世界的権威なのですが、実際のところ「ニコチンの真実」なんてのは守備範囲外なのではないでしょうか?「有名な学者」だからといって、自分の専門外の領域の「真実」なんて語りようもないと思いますし… それに、「タバコを吸っているかどうか?によって、「科学者としての信用」にかかわるのか、と考えると、聖人君子でないと学者として認められないのだろうか?とも思うのです。 僕はアルコールを嗜みますが、肝臓の悪い患者さんに「お酒は止めてください」と指導する機会はけっこうあります。まあ、多くの患者さんは自分の体のことですから「わかりました」と言ってくださるのですが、中には「じゃあ、先生は酒は飲まないんですか!」と食ってかかってこられる患者さんもいらっしゃるのです。こういうときは、なんだか悲しくなってきます。 「肝臓が悪い患者さんにとって、アルコールは体に悪影響を与える」というのは、いままでの研究や経験に基づいた「客観的な事実」です。その「客観的事実」というのは、その患者さんの目の前の医者が酒を飲もうが飲むまいが、変わりようがありません。だから、その質問自体は無意味なのです。僕が酒を飲もうが飲むまいが、その答えで急に酒が体に良くなったりはしません。 患者さんにとっての答えは「自分が止めるか止めないか」の二者択一のはず。 でも、僕たちは、目の前の人間に対して、往々にしてそういう「やつあたり的なモラル」を求めがちなんですよね。僕は別に、サッカーの監督が女性キャスターと不倫してようが、政治家が芸者と変態プレイをしていようが、彼らの本来の仕事である「監督」や「政治」に関して有能であれば、「無能だけどモラルが高い監督や政治家」よりは、はるかに優れていると思います。もちろん、「八百長をする監督」や「賄賂を貰う政治家」は問題外ですし、それぞれの家族に対する責任というのは別にあるのですが。
僕は養老先生がタバコを吸っていても(僕に向かってフーッと煙を吐きかけられたら怒りますよそりゃ)、それを「科学者として失格」と責めるつもりはありません。「養老先生の研究内容」と「喫煙者であること」は、別問題です。お体のためには止めたほうがいい、とは思うんですけどね。 「タバコは体に悪い」それはもう、客観的な事実です。呼吸器にも悪影響があるし、発癌率も上昇します。でも「タバコを吸う人は悪い人なのか?」という問いには、「そういう嗜好と人格は、直接は関係ないんじゃない?」と答えます。もちろん、アル中で周りに迷惑をかけるようなレベルになったり、快楽殺人が趣味なんていう「迷惑な嗜好」を持つ人は話が別だけど。
「禁煙の推進」は、本当にすばらしいことだとは思うのです。 でも、「タバコの害を説くこと」と「喫煙者を責めること」というのは、必ずしも同じことではありません。 実は「タバコを吸うような悪いヤツ」になりたくてタバコ吸ってる人って、けっこう多いのではないかなあ、という気もするんですよね。
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