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2004年01月13日(火)
「安全・安心」と「コストパフォーマンス」のあいだに

【BSE(牛海綿状脳症)の発生に伴う米国産牛肉の輸入禁止をめぐり、12日のNHKの報道番組で吉野家ディー・アンド・シーの安部修仁社長と亀井善之農相が、「安全・安心」と「需給の安定」を巡り“舌戦”を展開した。

 牛肉を全面的に米国産に頼ってきた安部社長は、政府が輸入再開に全頭検査か同等の安全対策が必要としていることについて「科学的な『安全』の根拠を超えた『安心』の基準は情緒的で、いたずらに輸入がストップして豪州産牛肉などの(価格)高騰を招く」と政府に再考を求めた。輸入再開の条件をめぐって米国が「全頭検査は科学的根拠がない」として難色を示しているのに同調した形だ。

 この後番組に登場した亀井農相は、日本では昨年に全頭検査の結果、従来は安全だとされていた1歳11カ月と1歳9カ月の若い牛の感染が確認されたことなどを挙げ、全頭検査が必要だとの考えを譲らなかった。国内外の関係者を巻き込んだ論争はまだ続きそうだ。】

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 たぶん、この番組を観た人は、「自分の会社(吉野家)のために、国民の安全性をないがしろにする吉野家社長、というイメージを持ったのではないでしょうか。
 僕もその番組そのものは観ていませんが、この記事を読んでそんな印象を受けましたし。

 そして、僕がこの話を読んでもうひとつ思い出したのが「がん検診」の話なのです。「癌の種類によっては、あまり検診の意味がない」という話を耳にされたことはないでしょうか?
 それは、簡単にまとめてしまうと、費用対効果というか、「検診を行って早期発見を行うことによる治療効果や社会的メリット(治った人が長く働ける分とか、手術の範囲が狭くなることによる治療コストの軽減など)が、その検診を全国的に行うための費用よりも小さい」ということなのです(あんまり簡単じゃなかったですね、ごめん)。

 今回のアメリカ産牛肉の輸入問題にしても、アメリカ側だって、本心としては「全頭検査をしたほうがいい」というのは認識しているのだと思います。ただ、それにかかるコストを考えると、「絶対的ではないが、かなり安全性の高い検査」というので代用しようということなのでしょう。こういう検査というのは、ある程度の精度を超えると、急激に飛躍的にコストが上がってしまうことが多いわけですから。
 場合によっては、99.0%を99.9%にするために、費用が10倍くらいになることだってあるのです。
 こういうのがアメリカ的な「コスト意識」で、「多少リスクが上がっても、それが微々たるものならある程度のところで妥協して、コストパフォーマンスを重視する」という発想なのでしょう。

 しかし、考えようによっては「どうせ100%は望めない」のであれば、どこかで妥協点を見出さなくてはいけないのも確か。「肉の値段が今の10倍になっても、全頭検査をするのか、それとも、アメリカ側の言う「統計学的に安全な検査」で妥協するのか、というのは、非常に難しい問題だと思います。

 結局、「安心の感覚」なんて、確かに情緒的なものなんですよね。
 「ここまでやれば安全だろう」っていう。
 ただ、僕自身は、医療経済学的には「ムダ」であるがん検診で、早期癌が発見されて助かった人などをみているだけに、「コストに見合わない検査は無意味だ」とは言い切れない気がするのです。
 アメリカは、「対費用効果が得られないような検査をするくらいなら、多少リスクが上がっても仕方がない」という国なんでしょうし、それが国の政策として「悪いこと」なのかどうかは、なんともいえないところもあるのです。
 僕はやっぱり、少々高くても安全なほうがいいですけど、ものすごく値段が高くなったらどうか?と問われると、やっぱり考え込んでしまいます。
 おそらく、「牛肉そのものを食べない」という選択肢に落ち着きそうですが、他の食べ物だって安全とは限らないし。

 しかし、アメリカ側も日本に輸出したいのであれば、自分たちのコスト意識を押し付けるのではなく、日本人の「情緒的な安全感覚」に配慮してくれてもいいのになあ、とも思うのです。やっぱり、早期癌が見つかって生き延びた人は、「検診受けて良かった」と言われるわけですし。それにアメリカは、自国では禁止されている農薬を使った果物を日本に輸出してきたこともありますしねえ…

 「絶対に安全な食べ物」なんて、この世には存在しないのだろうけど。