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2003年10月31日(金)
「全席優先座席制」じゃ、結局何も優先されない。

共同通信の記事より。

【横浜市交通局は31日、市営地下鉄の電車に設けている高齢者や障害者向けの優先席の指定をなくし、全座席を優先席として乗客に譲り合ってもらう「全席優先座席制」を12月1日から導入することを決めた。
 市によると阪急電鉄(大阪市)や神戸電鉄(神戸市)などが導入しているが首都圏では初。
 周知を図るため開始から2カ月間、制度に賛同する俳優の渡哲也さんや斉藤由貴さん、人気デュオの「ゆず」ら著名人計19人が社内放送テープで乗客に譲り合いを呼び掛ける。】

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 「全席が優先席です」
 まさにこれは、ひとつの理想ではありますよね。でも、なんだかこの話を聞いて、僕は一抹の不安を感じずにはいられません。

 僕がいまやっている仕事のなかに、いろいろな病院から送ってもらった標本を顕微鏡で診て、それを診断して返送する、というのがあります。
 裏方ではありますが、それによって患者さんが手術をするかどうか決まったり、治療の内容が変わったりすることもあるのです。ですから、間違いは許されません。
 その一方、「どうしても判断がつきません」ということはあるのですが。

 しかし、当然のことながら、臨床の医師たちは、患者さんを待たせているわけですから、一日でも早く結果を知りたがるのです。

 現在入院中で、早く治療を開始する必要がある等の理由で、送られてくる標本のなかでとくに診断に急を要するものには、<至急>のサインが入れられるようになっています。
 ところが、何年か前から、ほとんどすべての診断用紙に、<至急>のサインが入れられてくるようになったのです。
 「一刻でも早く、結果を知りたい」それは理解できるのですが、その一方で、あまり悪性らしくない、それほど緊急性がなさそうな標本も「早く結果を知りたいから」という理由で<至急>扱いに。
 それはもう、遅いよりは早いほうがいいには決まってますが。

 でも、考えてみてください。
 僕たちは、それまでも別に診断をワザと引き伸ばしていたわけではないのです。仕事をこなせる分量にも限界がありますし、組織を固定したり、機械で処理するのにかかる時間は、これ以上は短くしようがありません。
 結果としては、「全部が<至急>になってしまったら、全部<普通>と全然変わらない」ということになってしまったのです。

 ついには、本当に急ぐ診断については<大至急>の文字が書き加えられるようになりました。屋上架をなす、とでも言いましょうか。
 そのうち、<大大至急>とかも出てきそうな予感がします…
 ほんとうに<至急>にすべき診断だけを最初から<至急>にしてくれたら、こんなややこしいことにはならなかったのに。

 もともと、「優先席」ができる前だって、「困っている人には、席を譲るべきだ」っていう暗黙のルールは存在していたはずなのです。
 でも、そのルールを破る人ばっかりになったから、せめてある一定の座席だけでも、ということで「優先席」というのができたのではないでしょうか?
 おそらく、「優先席なのに若者や子供が占拠している」というような苦情が多くて、対応にも苦慮していたのかもしれませんが、「全部優先席」とアナウンスしてみたところで、乗客のモラルが急激に向上することはありえないでしょう。
 まあ、「席を譲らないのは、鉄道会社のせいじゃなくて、個人個人のモラルの責任」ということなのでしょうね。
 それは、確かに正論だけれど。

 たぶん、「全部優先席」でも、現実はあまり変わりません。むしろ、席を譲らない人は、「全部同じ条件だったら、自分より先にあそこで寝てる若者席をが譲るべきだ」とか考えてしまうでしょう。
 もちろん、以前から席を譲る人(もしくは、座らない人)は、以前から優先席とかは関係なく席を譲っているでしょうし、彼らは、これからもきっと良心に従って同じことをするでしょう。

 結局、何も変わらないんじゃないかなあ、というのが僕の印象です。
 根本的には、あんな異常な空間で毎日通勤を余儀なくされることが、最大の問題点なんでしょうが…

 「最優先席」とかをつくるよりは、マシなのかもしれないけどねえ。