初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2003年06月19日(木)
「コンビニでも売れる、副作用のない安全な薬」って?


「お客に言えない、『売れるお店』の裏話」(マル秘情報取材班・編、青春出版社)より。

(ドラッグストアの裏話)

【ドラッグストアでは、店長や副店長に薬剤師免許を持った人を置いているのは常識化しつつあるが、そんな専門知識のある彼らでも胃薬や頭痛薬などは必要がなければ自分で飲んで確かめるということはできない。
 それでも、お客は当然のように聞いてくる。
 「この胃薬とあっちの薬、どっちが効くかしら?」と。
 専門知識があればあるほど、店員はこういいたくなるらしい。
 「違うのはメーカーと値段ということしか私にはわかりません。似たりよったりじゃないですかね」。】

〜〜〜〜〜〜〜

 もちろん、すべての薬が同じくらいの効用、というわけではありません。
 たとえば、胃薬にしても、粘膜保護剤とH2ブロッカー、プロトンポンプ阻害剤(PPI)など、さまざまな系統の薬があり、ひどい胃潰瘍であれば、PPIは大きな効果が期待できますが、粘膜保護剤だけでは、充分な効力は期待できないでしょう。
 ひとくちに「胃薬」といっても、「胃薬」という薬自体がひとつのカテゴリーなのではなくて、明らかに効力や適応疾患、もちろん副作用や価格なども含めて、「胃薬」の中でも異なるいくつかのグループに分かれると考えてもらったほうがいいと思います。
 もちろん、異なるグループでは、効能や価格は違ってくるのです。
 こういった知識は、医師や看護師、薬剤師であれば、誰でも持っているはずのもの、ということになります。
 では、同じ「H2ブロッカー」というグループの中で、そんなに効力に違いがあるかといわれると、それは、正直言って難しいところです。
 もちろん、それぞれの薬は、特徴を出して(例えば長く効くとか、眠くならないとか、価格が安い、というのもそのひとつですね)シェアを獲得しようとしているのだけれど、実際は、これらのグループ内で、一種類の薬がパソコン界のマイクロソフトのような独占状態になることはありません。
 斬新な新薬や非常に珍しい疾患に適応した薬(ニーズそのものが少ない場合)には、一時的に独占状態が生じることもあるのですが。
 
 もちろん、薬品メーカーの切磋琢磨もあるのでしょうけれど、患者さんそれぞれの体質もありますし、飛びぬけて効く薬、なんてのはないのが実情。
 結局、スペック上は違いがあるとしても、実感としては「似たような薬」であることも多いのです。
 大メーカーの薬が高いことが多いのは、価格に宣伝費が含まれているからで、成分そのものはそんなに他社のものと代わり映えしなかったりもしますし。
 
 ただ、その中でも医療従事者は、少しでもその人に合った薬を飲んでもらおう、と考えているのも事実です。「似たり寄ったり」だからこそ、その中でどんな特徴を重視するかに専門家の知識が生きるのではないか、という気もしますし。

 要するに、効いてくれて、患者さんが満足してくれさえすれば、それがいちばんいいことなのですが。

 そういえば、今度、コンビニで薬の販売が行われるようになるそうですが、先日、僕はこんな話を聞きました。

 <医療ミスに対する厳罰を求める署名活動に参加した主婦の話>
「妊娠中に胃が痛くなって、近くの病院で胃薬をもらったのですが、あとで調べてみたら、妊婦が飲んではいけない薬だったんです。あれは医療ミスです!」

 確かに、ちゃんと状況を訊いて、説明しなかった医師が悪いと思います。
 でも、その一方、僕はこんなことも考えるのです。
 
 現在発売されている薬の中に、妊婦と乳児への安全性が確認されている薬というのを僕は寡聞にして聞いたことがありません。
 実際、妊婦や乳児に対して、安全性を確認するための臨床調査をやることなど、不可能でしょうし。
 ただ、症状によっては、僕も妊婦さんに比較的副作用が少ないと考えられる薬を本人の了解を得て処方することはあります。
 現在のところ、副作用のない薬なんて、ありえませんから。

 もちろんこんなことは、医師・薬剤師にとっては常識の範疇なのですが、この女性の話を聞いていると、普通の人々の間では、それは常識外のことみたい。

 さて、こんな状況で薬がコンビニで売られることになれば、安易に薬を飲んだために、さまざまなトラブルが起こることが容易に予測できないでしょうか?
 僕も含めて、病気の症状に苦しんでいる最中の人間は、まずあのゴチャゴチャした注意書きの隅々まで目を通すことはないでしょうし。

 薬は薬局(もしくは病院で)という取り決めは、不便ではあるのだけれど、実際は、安易な薬の服用に対する、ちょっとしたバリケードになっているのです。
 
 「副作用のない、安全な薬だけ売ればいい」
 確かに、僕もそう思います。
 でも、「副作用のない薬」なんて、せいぜい栄養ドリンクくらいのものですよ。栄養ドリンクだって、飲みすぎによるトラブルが結構あるっていうのに。