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2003年01月10日(金) ■ |
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ほんとうに「医療ミスが最近増えた!」と思いますか? |
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読売新聞の記事より。
【全国の国立病院や国立療養所など194の国立医療機関が「医療ミス」だとして患者や遺族から訴えられた訴訟は、昨年1―9月で32件に上り、大きな医療事故の報告も昨年4―9月で62件と、いずれも過去最高のペースであることが10日、厚生労働省が公表した集計で分かった。同省が長妻昭衆院議員(民主)の質問主意書に回答した。
集計によると、過去10年の訴訟件数は、2000年と2001年の28件が過去最多。昨年は9月末までに32件に上り、過去最多を9か月で超えた。
一方、事故報告は、昨年4―9月で62件。
血液型を間違えて輸血したり、手術でガーゼや医療器具を体内に置き忘れたケースなど、基本的なミスの事例が多いが、同省はプライバシーなどを理由に、患者の容体などを公表していない。
同省の集計について、医療事故情報センター嘱託の堀康司弁護士は「訴訟が増えたのは、大きな医療事故の報道などで、自分のケースも医療事故だと気づくようになってきたからではないか」と話している。】
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ほんとうに「医療ミス」は増えたのか? この記事の最後で、弁護士が「自分のケースも医療事故だと気づくようになってきたからだ」とコメントしていますが、僕も、その通りだと思います。 医療事故そのものは、たぶん以前より目に見えて減ったりしてはいないでしょうが、特別に増えてもいないのでしょうか。 たぶん、それが表面化する機会が増えているということなのでしょう。 医療の現場において、近年までは患者さん側には医療知識がほとんど無くて、なんでも医者の言いなりというのが当たり前でした。でも今は、患者さん側も勉強して来られていますし、インフォームド・コンセントは常識です。 それに、医療界も自浄努力を最近は行っており、とくに国立病院などでは、問題事例を隠蔽せずに報告するように義務づけられています。 輸血を行う前にも、血液型をダブルチェック、トリプルチェックして間違いが起こらないように注意してもいますし、手術室の前でも、くどいほど患者さんの姓名を確認するようになりました。 やりたくて医療ミスをする医療者なんていません。万が一親の仇でも運び込まれてくればともかく、そんなことをしても全く得になんかならないからです。 孟子は、彼の持論である性善説を「人は目の前で子供が井戸に落ちようとしていたら、必ず助けようとするはずだ。それを惻隠の情という」と説明しています(僕は全面的に人間の性は善だと信じているわけではないですが、この例そのものは理解しやすいと思いますのでここに挙げました) 別に医者じゃなくても、自分が医者という仕事についたらどうか想像していただければ、好んでミスをするわけないということは、理解していただけると思うのですが。
最近現場で困っているのが、何でも「医療ミス」だと言い張っているクレーマーみたいな患者さんが増えてきたことです。 血管が細い患者さんに点滴を失敗すれば「医療ミス」だと怒り、検査の説明をすれば「それは100%安全なのか?」と質問して「たとえば手技中に大地震が起こって針が他の臓器に刺さってしまう可能性だって0ではないんだから、100%はありえない」と説明すると、「100%成功すると保証しないとやらない。失敗したら『医療ミス』だ」と言い出す人もいるのです。 予想されるリスク「事故」と「ミス」は違うのだということを理解してもらうのは、ほんとうに難しい。 マスコミは、そんなこと報道してはくれませんから。
医者は、あらゆる処置を成功させようと願いつつ、力及ばないことだってあるのです。 医療の進歩が速くなりすぎて、医療者がついていけなくなっているところもある昨今ですし。 もちろん、ほんとうの「ミス」は責められてしかるべき。 でも、何でも面白がって、勉強もせずに「医療事故」を「医療ミス」という言葉を使うような報道のしかたは、考えてもらいたいものです。 ほんと、そんなに失敗したら責められるんなら、成功したらもっと賞賛してくれよ。 ブラックジャックみたいに「手術料は3千万円!」とかさ。
医療不信が言われていても、現場では医者も看護師も患者さんも頑張っているのです。 医療界も隠蔽体質からの「生みの苦しみ」を味わっているところ。 「医療ミス」したら責めてもらって当然ですから、その前にちゃんと話を聞いて、まずは信じてみようとしていただきたいのです。 もちろん、「こいつは信じられない」と思ったら、他に行かれてかまいませんから。
真偽のほどはわかりませんが、こんな話を聞いたことがあります。 アメリカのスラムの病院で、行き倒れになって死にかけていた男を献身的な治療で助けた医者がいたそうです。しかし、その男は助かった後、医師にこんなふうに言ったとか。 「先生、助けてくれてありがたいが、俺はあんたを訴える。そうしないと、俺も治療費が払えないからな。悪く思わないでくれよ」 僕は臨床医時代(たぶんまた、将来的にはそうなるでしょう)、「自分が何も考えない医療マシーンだったら、どんなに楽だろう」と考えていました。 医療者だって、けっして強者ではないのです。
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