監督:ガス・ヴァン・サント 出演:ショーン・ペン ジェームズ・フランコ エミール・ハーシュ、他 オススメ度:☆☆☆+
【あらすじ】 1972年NY、ゲイである事を隠しながらウォール街で働くハーヴィー・ミルクはスコットと出会い恋に落ち、2人で手を取り合うようにサンフランシスコに移住し、そこでカメラ店を開いた。そのカメラ店はたちまち同性愛者やヒッピーの心の拠り所・溜り場となり、新しい「マイノリティのコミュニティ」が出来ていった。マイノリティや弱者の為にはゲイが政治に参加して声を上げなければならないと考えたミルクは、政界に飛び込む決意をするのだが・・・
【感想】 1978年に暗殺された、政治家にしてゲイの権利活動家「ハーヴィー・ミルク」の半生を映画化。 本作でショーン・ペンが2度目のアカデミー賞主演男優賞を受賞したという事でも話題になっていますが、アメリカ史上初の黒人大統領が誕生した年にこういう映画が製作されるというのは、何か意図的なモノを感じないでもないです。
ハーヴィー・ミルクは1999年には「タイム誌が選ぶ20世紀の100人の英雄」にも選出された、アメリカでは誰もが知っている有名な方なんだろうと思いますが・・・この映画を見るまでこういう方がいらっしゃったという事を知りませんでした。世の中本当に知らない事だらけですねぇ。 まあ、ぴよが単に常識も知識もないおバカなだけなんですが(苦笑)
話はミルクがスコットと出会ってから暗殺されるまでの8年間の事を描いています。 実際はどうだか知りませんが、映画中では物凄くお気軽に出会って(つーか、地下道でナンパだよ)、そのまま行きずり状態でラブな関係になって・・・と随分と駆け足に2人の関係が描かれています。 知り合いや友人にゲイがいない(少なくともカミングアウトしたゲイはいない)ので、「ゲイの恋愛事情」に今一つ明るくないのですが、何となくノリ?で2人はNYから離れてサンフランシスコにやって来た、という風に見て取れます。
実際は違うんだろうと思います。 当時(今もか?)カリフォルニア、特にサンフランシスコは移民が多く、全国からヒッピーや同性愛者が集まる聖地のような様相を呈していた模様で、ゲイというマイノリティを受け入れつつ生きていこうと思うと、自然とそういうマイノリティが集まる場所に行かざるを得なかった、というのが本当のトコロなんだろうと推察。 言い方は悪いけど、いわゆる「ハッテン場」ってヤツだったんでしょうねぇ(^-^;
「アメリカ=自由の国」というイメージがありますが、そこに至るには様々な困難と犠牲を払ってきた訳です。 奴隷扱いしていた黒人に人権を認める事も、女性が政治や社会に進出して行く事も、政治的偏見と差別(赤狩り)をなくして自由な思想活動が出来るようになる事も、そしてゲイ等の超個人的マイノリティに対して耳を傾け受け入れて行く事も、そこには常に「戦いの歴史と犠牲」を払う事でようやく成し遂げたという経緯があるのです。 ハーヴィー・ミルクは正にその「マイノリティに対する権利」を獲得する為の生贄になった人だという事でしょう。
非常に魅力的なキャラクターだったというのは、映画中のミルクの演説シーン等で見て取れます。 抜きん出たカリスマと人を惹き付ける巧みで判り易い演説、ゲイに限定せずに老人福祉等への取組み、地域住民がマジョリティ・マイノリティに関わらず等しく快適に生活出来る為の努力等、映画中で次々と語られて行くので「ハーヴィー・ミルクという人はこういう活動をしていた人なのだ」という事はとてもよく判るし「なるほどなぁ〜」と思います。
ただ、映画としては正直それ程魅力的な演出ではなかったように思うんですよね。 彼が成した活動内容や功績についてはとてもよく判る、政治活動をしながらプライベートとの板ばさみになって苦労する様子もきちんと描いている。 それなのに、何か上滑りな印象は否めません。もっともっとミルクの心の内を知りたかったし見せて欲しかった。 映画中ではフランコとジャック、2人の恋人との様子を描いていますが、見ていてミルクがそれ程彼らを愛していたという風に感じなかったし、彼らに対してどんな思いでいたのかもよく判らなかった。
ミルクの政治家としての半生を描いた作品なので、彼のプライベートな感情については描き切る必要はなかったのかもしれませんが、見ていてミルクという人の人間性が今一つ理解出来なかったと言うか、簡単に言うと彼の行動や発言に思い入れを持つ事が出来なかったと言うのか・・・
自分がノーマルだから思い入れを持つ事が出来なかった?とは思いたくないですね。 もっと「ミルク」という人物の魅力を、人間性を見たかった。彼の功績は素晴らしいと思うし、今回本作を見てその一端に触れられた事はとても有意義だと思いましたが、何か後もう1つ欲しいのに・・・その「後もう1つ」が足りなくて平坦な伝記映画を見ただけ、という印象になってしまいました。
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