監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド ビー・バン アーニー・ハー、他 オススメ度:☆☆☆☆☆
【あらすじ】 フォードに定年まで勤め上げたウォルト・コワルスキーは、自分の中に持つ「正義」に忠実で、それから外れるものを許さない頑固で偏狭な男だった。妻を失ったウォルトの日々は庭掃除と飼い犬に話しかけながら飲むビール、そして愛車のヴィンテージ・カー「72年製グラン・トリノ」を洗車して愛でる事だった。ある日隣に住むアジア人家庭の息子「タオ」が不良仲間に脅されてウォルトの愛車を盗もうとした。それを追い払ったウォルトだったが、この事件をきっかけに隣家と交流が始まる。
【感想】 クリント・イーストウッド監督最新作&監督ご自身が主演。 何でもイーストウッドは本作を最後に俳優業からは完全引退をして、監督業に専念するとおっしゃっているとか? 本作を見ると誰もが思うハズ・・・「貴方はまだまだハリウッドに必要な【役者】です。貴方は監督としても素晴らしい才能を開花させているけど、俳優としても今尚第一線で輝く超一流ですよ」と。
正直、ここ数年製作されている彼の作品に、世間が絶賛するほどのモノは感じていませんでした。 アカデミー賞作品賞を受賞した「ミリオンダラー・ベイビー」も、絶賛されるのはさもありなんとは思うけれど、個人的には決して好きな作品ではなかった。 何となくやり方のあざとさが鼻に付くと言うのか・・・イーストウッド監督作品は絶賛しなければ映画好きとは呼べないとでも強要されているような気分になって、手放しで誉めたくない人だったんですよね。 ・・・まあ単なる天邪鬼なだけなんですが(苦笑)
でも本作はツボったなぁ! 何て言うのか、静かで地味な作りでしてね。(←いきなりこの言い方もちょっとどーよ?滝汗) 出演している役者でも名前を見て判るのはイーストウッドご本人しかいない。しかも映画序盤の彼ったら、頑固で嫌味でその上とてつもない人種差別主義者、全く箸にも棒にも掛からないような食えないクソ親父(苦笑)
それが、隣家と関わりを持つようになって(と言うか、勝手に隣家が関わってきた)勝気で聡明でキュートな女の子・スーと生きる目的を見失って迷走している青年・タオの姉弟と交わるようになってから、ほんの少しずつクソ親父が覚醒して行く。 ・・・でも相変わらず言う事嫌味っぽくて食えないんだけど(笑)
エピソードの見せ方が実に上手くてね。 全体の話のネタ的には結構ドス黒いんだけど、意外な事に実にコミカルに仕立てている。何度も笑わせてもらった。 特に隣家のバーチャンとの絡みは最高ですよ!床屋の親父とのやりとり、更にタオに「大人の男・指南」する為に床屋に連れて行くくだりなんていいですよぉ〜♪ 当に枯れてるお年頃(←変な言い方)の親父なんだけど、ちょっぴりスーに萌え♪な様子も何とも微笑ましかったり。
そしてコミカルネタとシリアスネタを交互に被せる事で、タオやスー達への思いが深まる様子をそつなく見せたり、親父のささやかだけど確実に変わっていく心境を観客に上手に提示していたと思います。 コイツの存在って必要あるの?とすら最初思っていた「童貞牧師(こら)」までもが、全て必要不可欠にして絶対無二の存在だったと後に思わせる。 全てのピースに無駄がない。そして全てのピースが観客の心に血を通わせ、心豊かにし、深い感慨を呼び起こす。
「意外な結末」と宣伝しているみたい?なんですが、察しのいい人ならウォルトが吐血しているという状況、その上新しいスーツを仕立てに行くくだりで彼が何を考えているのかが判るだろうと思います。 と言うか、もし自分がウォルトの立場だったら、ウォルトのような過去を持ちつつ生き長らえていて、そしてこの状況になったら自分は何をしてやれるだろうか?自分ならどうするだろうか?・・・と考えた時、ぴよもウォルトと同じ事をするだろうと映画を見ながら考えていました。そして結末も正しく想像した通りでした。
決して大団円のめでたしめでたし、ではない。 けれどそこに「魂の救済」があった。タオもスーも救われた。タオはこれからはきっと前を向いて信念を貫ける、粋な大人の男になれるに違いない。そして何よりウォルトが一番救われただろう。 「自己犠牲」とか「偽善」とか、そんな風に思わないで欲しい。この話で一番救われたのはウォルト自身だろうと思う。
久し振りに心の底から「いい映画を見たなぁ」と思える作品でした。DVD発売したら永久保存版として購入決定だな!
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