2008年05月08日(木) |
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド |
監督:ポール・トーマス・アンダーソン 出演:ダニエル・デイ=ルイス ポール・ダノ ディロン・フレイジャー、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 1900年代初頭のアメリカ。一攫千金を夢見る山師のダニエル・プレインビューは、ある青年からもたらされた情報を元に西部の鄙びた町にやって来て、周辺一帯の土地を安く手に入れた。地元民との交渉等には必ず幼い一人息子のH.W.を同席させてファミリーを強調するが、それは彼の戦略で、実の所ダニエル自身は他人を騙してでも金を稼ぐ事にしか興味のない男だった。油井を掘り当てたダニエルだったが、その際に事故でH.W.は聴覚を失ってしまう。
【感想】 ダニエル・デイ=ルイスが今年のアカデミー賞主演男優賞を受賞した作品。 でも作品賞や監督賞等にもノミネートされてましたよね。実は今年のノミネート作品一覧を見た時に、本作が個人的には大本命だと思っていたのですが、主要部門はザックリと「ノーカントリー」に持ってかれちゃいましたね(^-^;
話は1900年代初頭のアメリカで油井採掘を生業にして大儲けした男の一代記。 ただしこの男、どういう育ちをするとここまでひねくれ者になるのか不思議でたまらないくらい、まるで人間を信用しようとはせずにとにかく「金を稼ぐ」事しか頭にない。 当然だけど自分が儲ける為だったらウソやペテンは当たり前、時には人を殺める事すら厭わないという冷血漢。
このトンデモおやじ「ダニエル・プレインビュー」を、ダニエル・デイ=ルイスが演じている訳ですが、 まあ、主演男優賞を受賞するのもさもありなんの、とにかく凄まじい演技。アプローチは違うもののプレインビューと実は表裏一体のキャラクター「イーライ」を演じたポール・ダノもすっごい頑張ってたと思うけど、ダニエル・デイ=ルイスの演技が余りにも凄過ぎて完全に霞んじゃった。 ちなみに息子のH.W.を演じた子役ちゃん、本作で映画デビューらしいけど、彼もとても上手でしたね。
予告編を見た時には「油井採掘に賭ける男達の血生臭い闘争ドラマ」なのかな?と思ったんだけど全然違った。 上にも書いたように冷酷無比な守銭奴おやじの半生を見せているようで、実はそれもちょっと違う。勿論守銭奴おやじの半生を描いているには違いないんだけど、コレは「愛し方の判らない、愛に飢えた男の悲しい物語」を描いていたと思う。
誰からも裏切られたくない、裏切られない為には信用してはならない。だから勢い相手を傷つけてしまう。 「攻撃は最大の防御」と言わんばかりに、プレインビューは周囲を圧倒し、恫喝し、そして力でねじ伏せていく。
やり方は違うけど、怪しい宗教家・イーライもプレインビューと同じ匂いのキャラクターでした。 彼は信仰心を説いてエセ悪魔祓いをする事で、人々から信望と権力を得ようとする俗物。イーライにとって宗教は自分に注目を集める為のツールでしかなく、それを見透かされているプレインビューとはお互い延々と反目し合っている。 結局信じられるのは「金」だけ・・・ラストのプレインビューとイーライの遣り取りには背筋が寒くなりました。
「血の結束」だけが唯一信じられると思っていたプレインビューのいびつな愛の形は、次々と彼を裏切っていく。 もっとも裏切られた訳ではなく、息子に関して言えば「親からの自立」だった訳だけど、それすら「自分の元を去る」という一点にダニエルの脳味噌は沸点に達して、最愛の息子に決定的な一打を浴びせかけてしまう。 自分は相手を裏切っても、相手には絶対に裏切られたくはない・・・そんな人間のエゴが延々と曝け出される。
物凄く切ない話で、しかも最後の最後まで一片の救いもない。 愛し方の判らない・愛され方の判らない悲しい男は、巨万の富を得ようが「金の匂い」に人が集まるだけで、本物の愛は手の平から砂粒がこぼれ落ちるようにすり抜けて行く。
ハリウッドでは「バッド・エンディング」が流行りなんでしょうか? ここ最近観た作品って、どれもこれもバッド・エンディングばかりで、映画館を出た後にどうにも気分が重くなります。 コレも世相を反映しているという事なのか、本作も非常に完成度の高い素晴らしい作品だと思うのですが、こうも救いのない話ばかりが続くと食傷気味になるのは否めません。
「好きか・嫌いか」と聞かれると、正直好きな作品ではありません。でも観て損はない素晴らしい作品。
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