監督:ポール・バーホーベン 出演:カリス・ファン・ハウテン セバスチャン・コッホ トム・ホフマン、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 1944年、第二次世界大戦下でドイツに占領されているオランダ。ユダヤ人の元歌手ラヘルは既に解放されているオランダ南部へ逃亡しようとするが、ドイツ軍の急襲に遭い家族を惨殺されて財産を取られてしまう。命からがら逃げたラヘルは復讐を誓いレジスタンスに身を投じ、ドイツ軍将校ムンツェにその美貌を武器に近付いて女スパイとなった。ところがムンツェの優しさに触れた彼女は、次第にムンツェを愛するようになるのだが・・・
【感想】 今年の米アカデミー賞外国語映画賞のオランダ代表作品。 実際に受賞したのは「善き人のためのソナタ(ドイツ製作・2007.3.19鑑賞)でしたが、本作も善き人の〜と割と近しいネタの作品だと思います。善き人の〜は大戦後の東西分断中の東ドイツの話でしたが、本作はそれより以前の対戦中のドイツに侵略されているオランダが舞台。
何と本作は「善き人の〜」と同じキャストが出演している。 ドイツ人将校ムンツェを演じたのが、善き人の〜では才能溢れる劇作家ドライマンの役で登場していました。彼はどちらが受賞しても「オスカー作品に出演した名優」という名を勝ち得た訳ですね・・・いや、実は本作を見ていて「この人、絶対に最近見た事あるハズだけど何で見たんだろう?」と思っていたんだけど、最後まで判らなかった。それだけ役柄でキャラクターを使い分けられる素晴らしい才能をお持ちなんでしょう。
本作は「ロボコップ」「氷の微笑」等のハリウッド映画を撮るポール・バーホーベン監督が、実に23年振りに故郷のオランダに戻ってメガホンを取った作品だそうですが、バーホーベン監督らしい「リアルな惨殺シーン」と「やたらエロティックなシーン」をふんだんに盛り込んだサスペンス仕立てといった感じです。
こんな書き方をすると「ああ、あのラジー賞授賞式にご本人登場で会場を沸かせた監督さんねー」と、駄作をイメージしてしまう方も多いんじゃないかと危惧するのですが・・・本作は実に良く出来た素晴らしい作品だったと思います! 正直「善き人の〜」と両方鑑賞した今、どちらが受賞してもおかしくなかったと思える出来だったと思いますね。
「サスペンス」と上に書きましたが、映画冒頭で戦後イスラエルに渡ったラヘルと戦中ドイツ軍で共に働いたロニーが再会するシーンで始まり、ロニーに出会った事で過去を回想する・・・という形式で映画が構成されているので、最低でも「何が起ころうが主人公のラヘルが死ぬ事はない」というのは織り込み済みで鑑賞する事になります。 そういう意味では「一体ラヘルはどーなっちゃうのぉ!?」という不安はないので、サスペンス色がイマイチ押し出し難いのではないか?と、個人的にはちょっと不安になりながら映画を見ていたのですが・・・
なんのなんの!シロートのエセ映画好きが心配する必要なんざー全くありませんでしたわ(苦笑) 「ラヘル」という数奇な運命を辿る女性の半生を見せる事を主軸に、当時のレジスタンス活動家達の様子、ユダヤ人の様子とそれを手助けするレジスタンス活動グループとの関わり、ドイツ軍将校達個々の思惑や裏工作、レジスタンス側・ドイツ軍側双方の裏切りと密通者探し、そして主人公ラヘルとドイツ軍将校の心の交わり等々、非常に多くのネタを盛り込みながら、どのネタも実に丁寧に「ネタ振り→収束」まで見せてくれます。
流石のバーホーベンフィルムだけあって、やたらかたらお姉ちゃんが脱ぎ散らかします(笑) でも脱ぎ散らかしてもそれほどムダにエロいという感じはしない。ネタがストイックな事もあるけど、彼女達が体を張って生きる理由付けが充分されていたし、観客もそれを納得して見られる丁寧な描写だったと評価していいと思いますね。
オランダ人監督が当時の自国を描いているのに、決して「ドイツ=絶対悪」という描き方をしなかった、むしろレジスタンス側(オランダ人)の裏切り、そして戦争終結後に自国民同士でありながら「ナチに擦り寄って生きた奴らを迫害する」という醜い部分をきちんと描いたのはとても勇気のある事だと思うし、非常に評価出来るし好感を持ちましたね。 タイトルの「ブラック・ブック」そして映画中に度々登場する「チョコレート」等の小道具の使い方も、後のネタ明かしのシーンで効果的に使用されていて、実にいい脚本だったと思いました。
痛ましい戦争、そして「戦争」という名の魔物に翻弄される人々、敵にも味方にも等しく良い人間もいれば私利私欲に走る汚い人間もいる。そして戦中のみならず戦後に到っても差別と迫害が待ち受ける。 映画冒頭に登場するキブツ(イスラエル国内にある労働ボランティア共同所)に何故ラヘルが移り住んでいるのかという部分まで、この映画のサスペンスネタに絡めてきっちりネタを収束させるという芸の細かさには、思わず舌を巻きました。
「ユダヤ人迫害ネタ」と言ってしまうと、昨今多く製作され過ぎて食傷気味になってしまう人も多いと思いますが、本作は確かにユダヤ人女性の半生が主軸の構成にはなっているものの、決して単なるユダヤ人迫害ネタではありません。 是非多くの方に鑑賞して欲しい、素晴らしい作品だと思いましたね。
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