2006年09月22日(金) |
ワールド・トレード・センター |
監督:オリバー・ストーン 出演:ニコラス・ケイジ マイケル・ペーニャ マギー・ギレンホール、他 オススメ度:☆☆☆
【あらすじ】 2001年9月11日。ニューヨーク港湾局警察官班長のジョン・マクローリンは、今日の勤務配置を発表しながら「お互い守りあい、事故のないように」と言葉を掛けて、全員配置に着いた。程なくして辺りがかつてない地響きに包み込まれる・・・世界貿易センター北棟に旅客機が激突したのだった。続いて南棟にも旅客機が突っ込んだという未確認情報も錯綜。マクローリン達港湾局警察も全員現場へ急行。部下のメヒコ以下数名を連れて救助の為にWTCビルに入るのだが・・・
【感想】 巨匠オリバー・ストーンが監督、主人公のマクローリンを名優ニコラス・ケイジが演じた、説明するまでもないあの未曾有の悲劇「アメリカ同時多発テロ」の中で奇跡的に生還した港湾局警察官2人の姿と彼らを助ける為に尽力した人々、彼らをとりまく家族模様等を描いた作品。言うまでもなく事実を元に製作されています。
まず・・・これは「映画感想」ではなくなってしまうのだが、今この映画を製作する意図が判らないんです。 たかだか5年前の出来事、とてもじゃないけど「この事件を風化させないように」なんてお題目が似合う年月じゃない。 このビルの崩壊で、実に3000人近い方がお亡くなりになっている。亡くなった方だけでこの人数、その1人1人には家族がいて恋人がいて大切な人が沢山いた事だろう。そういう遺族の数は数万にも数十万にも及ぶハズ。 そういう遺族の気持ちを考えたら、事件後たかだか5年でこの題材を取り上げるのはどうかと思うんですよ。せめて50年くらい経ってようやく「かつてこんな未曾有の悲劇があった」という事を取り上げるならまだしも、今はまだ早過ぎる気がする。
そんな事を見る前から思いながらの鑑賞だったので、とにかく映画を見ている間中ずっと体が震えていた。 TWCビルに旅客機が激突してもうもうと煙を上げる映像、上空から書類が紙ふぶきのように舞い散る映像、火災による熱さに耐えられなくなってビルから人が飛び降りていく映像、血まみれになりながら支えあって非難する映像。 何を見ても恐怖と怒りに体が震え、鳥肌が立ち、背筋がゾッとし、体が硬直する。見るに耐えない。
映画は、ビルの崩落により生き埋めになった警察官2人が救出を待つ間のリアルな描写、夫の安否に絶望する家族、1人でも多くの人を助けたいと立ち上がる人々の勇気等を描いているようだが、ぴよに言わせれば何もまだ生々しい悲劇として誰もが心に傷を持っている「同時多発テロ」を題材にしなくても、完全なフィクションでパニックムービー仕立てにしてヒューマンをクローズアップするとか、人災ではなく天災を題材に(例えばスマトラ沖地震やトルコ地震等)してもよかったんじゃなかろうかと思うんですよ。
映画を見ていると、周囲からすすり泣きの声が聞こえる。 確かにこの題材なら泣けるでしょう、泣けるに決まってるんです。それでもぴよは泣く気になれなかった。 遺族の方に、そしてこの事件で尊い命を喪った方々に何だか申し訳なくて泣いてはいけないような気がしてしまった。 こんな悲劇を映画にしてはいけない気がした。映画は文化だし、時に啓蒙もする。それでもまだあの事件から5年しか経っていないのに、遺族の方々だってまだ何も心の中で決着が着いていない事だろうに、「愛と勇気、そして生還」なんて軽々しく映画にしてはいけないような気がした。
腹が立つのは、この事件に関わった人物のその後がラストにテロップで流れるのだが、2人の警察官を救出するのに重要な役割を果たした元海兵隊員が、この事件後再び現役復帰し、志願してイラク戦線に行ったという事を流した事だ。 事実なんでしょう。でも知りたくなかった。テロに遭ったからイラクに攻撃ですか?違うでしょ? 本作の公式サイトには「人と人は支えあって生きている」という事が作品のキーワードになっていると書いてあるが、それが今のイラクの状況を生み出しているとしたら何たる皮肉か!
映画感想としては「面白かった」「映像が迫力あった」「役者の演技が」等と言う事を論じなければいけないんだろうけど、とてもそんな暢気な事を思えるような対象には成り得ない。だから上記の「オススメ度」も評価しようがなかった。 是非見るべきだとは言えないし、見てはいけないとも言えない。でも映画にするべき題材じゃない。それしか言えない。
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