監督:小泉堯史 出演:寺尾聰 深津絵里 吉岡秀隆、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 新しいクラスを受け持つ事になった数学教師の「ルート先生」は、何故自分が「ルート」と呼ばれるかを語り始めた。それは彼が幼い頃、シングルマザーの母が家政婦として働きに行った家の主・・・交通事故の後遺症で「80分しか記憶が続かない」という障害を持った天才数学博士と出逢った事がきっかけだった。博士に「ルート」と名付けられ、数字と数学の美しさ・奥深さを教えられたルート母子は、博士と3人で和やかな日々を過ごすのだが・・・
【感想】 「第一回本屋大賞」受賞作、小川洋子氏著のベストセラー小説の映画化。 コレを「雨上がる」で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した小泉堯史氏が監督、主演の博士を「登場しただけで泣ける」癒しの演技をさせたら天下一品!の寺尾聰氏、家政婦役はこれまた「まったり癒し系」の深津絵里嬢が演じています。
世間的にもかなり評判のいい作品なので楽しみにしていたのですが、コレは悪く言われようがない。 そもそもキャスティングからして「癒し度」満点ぢゃないですか。寺尾氏が記憶障害を持った心優しい博士を演じる、という辺りで既にかなり卑怯ですよ(笑) 彼がスクリーンに登場して穏やかに目を細めるだけで「な、泣かなければっ!」って気になりますもん。(^-^;
原作はどういうアプローチなのか知りませんが(原作未読)、本作は大人になって数学教師になった「ルート先生」が、生徒達に自分の名前の由来を語る「回想形式」で物語の本筋が語られていくという手法を取っています。 コレが観客にすんなりと「数学と数字、数式の奥深さ・楽しさ・美しさ」を伝えるのに効果的になってる。
冷静に考えると「特に感動する程のモノでもない、どうって事ない話」だったと思うのですが(をい) 博士の語る「数字にまつわる話」「相手に関係する数字を絡めた話」がことごとく詩的で癒される。数字を愛する博士は一見すると他人とのコミュニケーションが苦手のように見えて、実は人間をも深く愛して慈しむ「褒めの達人」だったりする。
容姿に褒めるトコロがなければ服装や髪型を褒めろ・・・とはよく言われるものですが、人間は自分の本質部分をさりげなく褒められる事が実は一番嬉しい、というのを博士はよく判ってらっしゃる。 初対面で相手の本質なんか見えっこないが、自分の足のサイズを「実に潔い数字だ」と言われたり、何でもないアホ面のガキが(をい)「賢い心が詰まっていそうな頭だ」と言われてなでられたら、誰だっていい気分になるに決まっている。
人と人とのコミュニケーションを「数字」「数式」に当てはめて語ろうとすると、普通に考えれば理屈っぽくて小難しくなるだろうと思うものだが、本作では逆に数字や数式を用いる事で、誰にでも判り易く情緒的な表現になってしまうという不思議。 多分現代のルート先生の授業の様子は、回想シーンの寺尾氏のやりとりだけでは説明不十分であろう部分を、観客に対して補完説明しているという役割も担っていたと思う。コレは本当にウマい。
「友愛数」や「完全数」という定義も、そんな数字が世の中に存在している事もこの映画を見るまで知らなかったけど、この映画がぴよの学生時代に公開されていれば、さぞかし数学が好きになれただろうになぁ、と思うと残念ですよ。(^-^;
本作、惜しむらくは「友愛数」の印象が強過ぎて、肝心の「博士の愛した数式」である「オイラーの法則」に関するエピソードと印象が少々薄く感じられてしまった事くらいだろうか・・・浅岡ルリ子サンの厚化粧があんなに強烈な印象を残してくれたというのに、肝心のエピソードが心に残らなかったのは返す返すも残念でした。(笑)
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