監督:スティーヴン・スピルバーグ 出演:エリック・バナ ダニエル・クレイグ ジェフリー・ラッシュ、他 オススメ度:☆☆☆+
【あらすじ】 1972年9月5日、ミュンヘン・オリンピック選手村にパレスチナゲリラ「黒い9月(ブラック・セプテンバー)」が押入り、イスラエル人選手団11名を人質に政治犯の釈放を求める事件が発生。人質11名全員死亡という最悪の結果となった。これに激怒したイスラエル機密情報機関「モサド」は暗殺団を結成し、この事件の首謀者11名の暗殺を開始する。暗殺団のリーダー・アフナーは次々と暗殺を実行していくのだが、次第に自分達のしている事に疑問を持つようになる。
【感想】 スピルバーグの新作社会派サスペンス。 彼は「E.T.」「インディ・ジョーンズ」「宇宙戦争」に代表されるSFモノと「カラー・パープル」「シンドラーのリスト」みたいな社会派モノを交互に作っていますよね。きっと彼の中で一つの枠(イメージ)に固執しないで、自分のやりたい「相反するジャンル」を交互に作る事で観客を楽しませようという意図があるんじゃないかと思うのですが。
ミュンヘン・オリンピック開催時に起こった悲劇を題材にして、「テロとその報復」という悪循環を赤裸々に見せる事で、世界に対して問題提起をしている・・・という趣向なんだろうなぁ、と思うのですが。
自身がユダヤ人であるスピルバーグがこのネタに敢えて着手したというのは非常に興味深いと思う。 当然だけど鑑賞前に想像してたのは「ユダヤ人万歳」な、一方的にパレスチナゲリラを批判する内容なんだろうなぁ・・・というトコロだったんですが、蓋を明けると決してそういうモノでもない。 むしろ「やられたからにはやり返せ!という考えはどうなのよ?」というメッセージの強い作品だったと思う。
主人公の暗殺団リーダー・アフナーは、最初の内は「自国の正義を貫く為に報復は当たり前だ」という姿勢でいる。 でも暗殺を続けて、次第に自分達の面が割れて今度は自分達の命が狙われるようになると、ようやく自分のしていた事が本当に正義なのかどうか疑問に思うようになる訳だ。 例え自国の罪のない人間を虐殺した相手だとは言え、所詮自分のやってる事も「単なる人殺し」ぢゃないか、と。
テロの標的になった事のない「日本」に住む「日本人」のぴよだから思うのだろうか・・・ 「血に血で報復をすれば、更に相手も血を求める悪循環に陥るのは当たり前でしょ」 「どんな理由があろうが人殺しは人殺し。どちらかが断ち切らなければ終わらない事くらい判るもんでしょー」 と、醒めた目で見ているというのは。
結局「テロを起こす」「それに報復するのは当たり前」という感覚は、日本人には到底理解が出来ない事だと思う。 自国を失った事も植民地化した事もなく、単一民族・単一言語で島国根性丸出しに生きて来た日本人に、ユダヤ人の悲劇の歴史も、パレスチナ人の喪失感やユダヤ人に対する恨みも、理解出来るハズがない。 国民性・アイデンティティが違い過ぎるんですよ。
だから映画を見ていて「で、結局何をどうしろと言うのさ?」という疑問符しか残らない。 元々ユダヤ人達が住んでいて追われた場所なんだから、イスラエルという国が出来たっておかしくないと思う一方で、ユダヤ人達があの場所を追われて世界中に散り散りになってから何千年経ったと思ってるんだ!今更アメリカのご都合で取って付けたようにいきなり「イスラエル」なんて国を無理矢理作りやがって、フザけんぢゃねーよ!と憤るパレスチナの皆様の心情も判らないでもない。
でも「じゃあ殺しまくればいい」ってーもんでもないでしょ、と日和見日本人のぴよは思う。 堂々巡りだけど自分の中で答えが出ない。そしてこの映画も「じゃあどうすればいいのか?」という結論は出さない。 自分のしている事に疑問を持っても、だったら何が最良の手段だったのかは誰にも判らず終いなのだ。
ただ、この映画の「もしかしたら一番のキモ?」と思ったのはラストシーンのショットですね。 コレは超ネタバレになるので文字を隠しますが(以下、ネタバレしたくない方は【】内ドラッグ禁止)
自分でも答えの出ないモサドの暗殺団リーダー・アフナーが佇む背後にいつまでも写る【WTCビル】の風景。 結局血を血で洗うユダヤ人絡みの中東のゴタゴタの影に暗躍するのは【強大なアメリカ】なんだろうと。 ユダヤ人問題に限らず、世界の戦争を常にリードし続けた上にちゃっかり儲けているのはこの国なんだろうと。 だからあんな悲劇が起こってしまったのだろう・・・かの国にしてみれば「飼い犬に手を噛まれた」というトコロだろうと。
上記の【】内をドラッグした方もしなかった方も、ラストシーンの風景だけは見逃さないようにしましょう(^-^;
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