2005年06月19日(日) |
リチャード・ニクソン暗殺を企てた男 |
監督:ニルス・ミュラー 出演:ショーン・ペン ナオミ・ワッツ ドン・チードル、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 1973年、サム・ビックは別居中の妻マリーとやり直す為に事務機器の販売員として職を得た。しかし不器用で正直に生きる事が信条のサムは、口先だけで客にウソを付いてまで売り上げを上げるやり方に納得が出来ず苦悶する。そんなある日裁判所から婚姻解消通知が届き、更には新ビジネスの為のローン申込みの却下通知が届く。自暴自棄になったサムが連日TVで目にしていたのは「正直者がバカを見るアメリカ」を作ったニクソン大統領の姿だった・・・
【感想】 1974年に実際に起こった「ハイジャック・テロ未遂事件」を元に作られた作品。 微妙な言い回しですが、本作は実際の事件の背景と全く同じという訳ではなく、実際に起こった事件をヒントに作ったもののあくまでもフィクションの人間ドラマという事らしいです。 監督は本作が初メガホンのニルス・ミュラー氏。製作にはレオナルド・ディカプリオやアルフォンソ・キュアロン、アレクサンダー・ペインと言った錚々たる顔ぶれがクレジットし、更に主演はオスカー俳優ショーン・ペン、妻マリーをナオミ・ワッツ、サムが信頼を寄せる友人ボニーを「オーシャンズ12」で日本でも知名度のグッと上がったドン・チードルが演じています。
実際に起こったテロ未遂事件自体を描くのではなく、どうしてサム・ビックという小心な1市民がこんな大それたテロ事件を起こそうとしたのか?・・・という「事件に到るまでの犯人の心情」を見せて行くという作りです。
まあ簡単に言っちゃうと「被害妄想の激しい社会の底辺にいる、ちょっとキチ入ったおっさんの話」なんですが(笑) 決してこの作品はおっさんを悪者にしていません。むしろ何とも切なく悲しい男として見せてくれます。かと言ってテロリストやテロ行為自体を擁護している訳でもなく、実に淡々と「おっさんがテロに走るまで」を見せて行く作りになっていました。
サムの「自分にも他人にも常に正直でありたい」という考え方は、決して完全否定出来るものではないと思う。 でも「正直ではない」は決して「相手にウソをついている」とイコールではない事を普通の人なら知っている。それは通常なら誰でも「商売上の駆け引きだ」と認識しているハズだ。
それを商売の駆け引きがうまく出来ない(理解出来ない)自分は悪くない。悪いのは駆け引きをしなければ商売が成功しないという社会構造とそれを作った国家と政治家なんだから、それをぶち壊す事が正義なのだ・・・という考えに思考が展開していく訳ですが(世の中のテロリストは本気でこう思っているんだろうか?) サムは自分の内側に問題があるとはこれっぽっちも思っていないという部分で既に破綻していると思うのだ。
映画はサムが崇拝する指揮者「レナード・バーンスタイン」に肉声テープを送り付ける為に、延々と一人語りしているという形でナレーションを入れているんだけど、これが非常に効果的だと思いましたネ。 サムの独白を聞きながら彼の行動を見て行くと、この被害妄想の激しい頭の回線のぶち切れた男の事が、小心で正直に生きたいと願いながらもそれが叶わなかった・・・愚かなのにとてつもなく悲しく切なく哀れな男に思えてくるのだ。
愚かで悲しく切ない男だと同情しても、彼を心底支持出来る人はおそらく少ないだろう。 サムの考え方が全く破綻していると、誰もが判る。それでも彼を「悲しい男」だとどこか好意的に見れたのは、やっぱりショーン・ペンの演技が際立っていたからなんだろうなぁ・・・本当に彼はウマいですわ。 かなり政治色の濃い話ですし(反ブッシュ派には大ウケ?)、話自体が暗く救いようがないので万人ウケするとは言い難いですが、役者の巧みな演技を楽しませてくれる秀作として、映画好きさんには是非オススメしたい一本です。
それにしても本作、見事なまでにリベラリストが寄り集まって作ってますが(それも当然な内容ですがね)、この作品を見てただちに民主党支持に走るアメリカ国民が増えるとは到底思えませんて(^-^; むしろ逆効果なんじゃないの?コレ・・・ま、どちらにも興味のないぴよが言っても無意味ですけどネ(笑)
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