監督:イム・チャンサン 出演:ソン・ガンホ ムン・ソリ イ・ジェウン、他 オススメ度:☆☆☆☆
【あらすじ】 1960年代韓国。軍事クーデターの後、新政権が誕生した。大統領官邸のある町に住む理髪師のソン・ハンモは、ひょんなきっかけで大統領の理髪師という大役を仰せつかる。緊張しつつも誠実に仕事をこなし、やがて町で一目置かれる立場になった。ところが北朝鮮武装ゲリラ侵入事件が起きた事で町は恐慌に陥るのだ。彼らが下痢をしていたために同じ症状を訴える者は「マルクス病」とされ、スパイ容疑で次々と逮捕されてしまったのだ。そんな折、ハンモの息子も下痢を訴え・・・
【感想】 韓国で公開されるや、わずか1ヶ月で200万人の観客動員数を叩き出したメガヒット作。監督は1969年生まれの若き韓国の巨星となるか!?本作が監督デビュー作となるイム・チャンサン氏。 主人公ハンモ役を「JSA」「殺人の追憶」等の名作に次々出演している名優ソン・ガンホ、ハンモの妻役を「オアシス」での鬼気迫る演技で記憶に新しいムン・ソリが演じています。
1960〜70年代の韓国は、軍事クーデターで幕を開け、1979年10月に暗殺されるまで独裁者として君臨し続けたパク・チョンヒ大統領の軍事政権だった。 その間ベトナム戦争派兵があったり、北朝鮮武装ゲリラ事件があったりして町は戒厳令が敷かれ、長きに渡りこの時代を映画化するのは韓国ではタブーだったそうです。
通常この時代を映画化するというと、どうしても政治色が濃くて小難しい(又は殺伐とした)カラーになってしまうだろうと誰もが思うトコロですが、本作はそんな暗い時代を「大統領官邸のある町」に住む「大統領の理髪師」という大役を仰せつかった町の1市民の視点から語る事で、とてもコミカルに楽しく時代を見せてくれています。
息子の生まれた背景と時代の事件を絡めてエピソードにしている辺りで掴みはOK! その後も基本的にコミカルなエピソードを綿々と連ねて行くんだけど、かなり時代に対する風刺を効かせています。
劇中で話が大きく動く(時代も大きく動く)「北朝鮮武装ゲリラ侵入事件」の見せ方も、相当緊迫するハズなのにものすごくコミカルで笑わす!笑わす!その後国民を苦しめた「マルクス病」という謂れのない奇病の犠牲者達も、殺伐となるギリギリのラインで「切ない」に留めて→親子愛に転化させていく妙技。 とても本作が初監督作品とは思えない、素晴らしい監督の力量!今後のイム監督の新作が楽しみです。
日本人として韓国の歴史を見ると「パク・チョンヒ大統領=とんでもねぇ軍事独裁者」というイメージしかなかったのですが、本作は「大統領官邸のある町に住んでいる→何となく大統領を身近に感じて盲目的に慕っている」という立場の人達の視点で見せる事で、かなりパク・チョンヒ氏を好意的に描いていたように思います。 実際のトコロはどうなんでしょう?韓国の国民にとってパク・チョンヒは恐ろしい独裁者だったのでしょうか?それともこの映画で描かれているような好意的な人物だったのでしょうか?
少なくとも一人息子が逮捕された挙句に不具にされてしまったのにハンモは恨み言一つ言わないし、どう考えてもオヤジのせいでそんな目に遭ってしまった息子も、グチ一つ言わずに父親を全面的に信用して愛している。 見ていてこの部分は違和感があったのですが、でもハンモの息子に対する愛と「必ず治す!」という執念に心打たれたぴよは「こんなに麗しい親子愛なんだから違和感持ってもしゃーないかー(をい)」と妙に納得させられちゃいました(^-^;
韓国の暗く不遇(だとばっかり思っていた)時代が、見せ方一つでこんなにハートフルでコミカルな作品に出来る。 この時代の韓国の事をあまりよく知らないぴよには、きっと痛烈な風刺?ブラックユーモアとして見せているんだろう部分のいくつかはよく理解出来ませんでした。それがちょっと残念です。 本作をご覧になる方は、60〜70年代の韓国の歴史を色んな側面から調べてから鑑賞した方が、よりこの作品の深い部分や背景まで楽しめるんじゃないかな?と思いますね。
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