監督:ジョエル・シューマッカー 出演:ケイト・ブランシェット ジェラルド・マクソーレイ バリー・バーンズ、他 オススメ度:☆☆☆☆−
【あらすじ】 1994年アイルランド・ダブリンに住むヴェロニカ・ゲリンは妻であり母であり、そしてサンデー・インディペンデント紙の女性記者だった。彼女はダブリンの子供が麻薬に溺れ売人が巨万の富を得ている現状を見て、麻薬犯罪の取材を始めた。 時としてその強引な取材方法に同業者達の失笑を買っていたものの、確実に麻薬ルートの真相に近付きつつあるヴェロニカに脅威を感じた組織のボスは、彼女を脅しにかかるのだったが・・・
【感想】 ジェリー・ブラッカイマー&ジョエル・シューマッカーのゴールデンコンビが送り出す一作。 ヴェロニカ・ゲリンはアイルランドに実在したジャーナリストで、彼女によってアイルランド国民は動き、そして司法までを動かしてついには法律改正にまで至ったという「現代の英雄」の実話の映画化。
話はヴェロニカが銃弾に倒れるシーンから入り、そこに至るまでの過程を振り返って見せていくという手法。 ケイト・ブランシェットという女優のイメージと、信念を貫き通して殉職したヴェロニカ・ゲリンという女性のキャラはうまくシンクロしていたと思う。ケイトの控えめでありながらも力強い演技は、相変わらず説得力があってウマいと思うなぁ〜
事実の映画化という事を大切にしたいからなのか、脚本や展開も淡々としていてヴェロニカ自身の葛藤や機微に余り突っ込んだ見せ方をしていないと思う。 唯一彼女の心情を窺わせるのは、組織のボスから電話で脅迫される辺りくらいだろうか?でも、これくらいの淡白な見せ方で充分だと思うよ。この手のネタを妙にウェットに見せられても逆に白々しい感じがするしネ。
この映画の感想とちょっと違っちゃうと思うんだけど・・・ 映画を見てて、ぴよは何だかやるせないと言うか腹立たしいと言うか、複雑な気持ちになったのよ。
ヴェロニカという女性は、自国の麻薬に溺れて荒廃した状況を何とかしたいと果敢にも立ち上がった。 脅しが自分の身だけではなく、我が子にまで及ぶかもしれない状況になっても、その追求の手を緩める事はなかった。 素晴らしい事だと思う。ぴよにはとてもマネが出来ない。
でも彼女は自分の家族にまで害が及ぶかもしれない状況まで来て、どうして追求の手を緩めなかったんだろう? 国を愛して国の将来を憂い、果敢に巨悪に立ち向かう姿勢は本当に素晴らしいと思うけど、その信念を貫く事によってもし我が子を失ったり愛する夫を傷付けるような結果を生んだら、彼女はそれでも「私の信念は正しかったんだから、たとえ家族が犠牲になっても致し方ない」と言えたのだろうか? 結果から言えば犠牲になったのはヴェロニカ本人だけだったから「英雄」になったけど、これがもし脅迫通りに我が子が誘拐されて犯され、ヴェロニカ本人が生き残るような結果になっていたとしたら、世間の反応はまるで違ったものになったのではないだろうか?
こういう考えになるのも、そもそもこの話の結末が「ヴェロニカが銃弾に倒れた事によって法改正に至った」という経緯があるからに他ならない訳でして。
彼女が訴えていた事を、彼女が何度も脅されながらも報道している間に国や国民が真摯な態度で受け止めて危機感を持って対処していれば、彼女が命を失うという最悪の結果にはならなかったと思うのです。 犠牲者が出なければ動かない国民と政治。過去の歴史を紐解いても、いつも犠牲者・・・もっと言えば「生贄」「人柱」を立てなければ動かない人や政治というのは、もういい加減にここらで止めに出来ないのだろうか? どうして人はいつも生贄を欲するのか?どうして国は人の命と引き換えにしなければ動けないのだろうか?
映画の感想とはかけ離れてしまったかもしれないけど、ここまで考えさせられる作品というのには久し振りに出会ったような気がしますわ。 映画の作り云々よりも、たまには自分の中に問題提起するような作品を見るのも大切かな、と思うね。
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