2004年06月28日(月) |
みなさん、さようなら |
監督:ドゥニ・アルカン 出演:レミ・ジラール ステファン・ルソー マリー=ジョゼ・クローズ、他 オススメ度:☆☆☆☆−
【あらすじ】 ロンドンで証券マンとして働くセバスチャンは、父親が末期ガンで長くないから帰国して欲しいという母親の懇願を受け入れて、故郷のカナダに戻って来た。女癖が悪く、長い間母と別居をしていた父に嫌悪感を募らせていたセバスチャンだったが、父の最期を幸せなものにしようと懸命に演出するのだった。
【感想】 第76回(今年度)アカデミー賞外国語映画賞受賞作。 自由奔放に生きた父親に長年嫌悪しながらも、やはり最愛である父の最期を幸せに送り出そうと遁走する息子と、悪態付きまくりの自称・社会主義者の父親と超資本主義者の息子との対比、父親をとりまく友人&元愛人達との交流を見せるちょっと難しいテーマの作品。
この作品は色んなテーマが織り込まれていると思うんですよ。 その全てをぴよが理解出来たとはとても言えない(もっと言うとたぶんほとんど理解してない)と思うんですが、一番判り易いテーマは「親子の愛」だと思うんですよ。 子供の頃から浮気しまくりで散々母親に苦労をさせた父に対する嫌悪感。しかしながら、やはり自分の父親はこの人しかいない訳で、親に対する子の「無償の愛」がある訳です。
ですがこの作品はもーちょっと深読みすると、全然違う面が見えて来るのです。 (ぴよはかなり深読みし過ぎて、もしかしたらこの作品のテーマと全く違う部分ばかり考えていたかも)
「父親=社会主義」「息子=資本主義」という記号に当てはめ、更には「9.11@アメリカ同時多発テロ」ネタを引っ張ってきて、父親のセリフでアメリカのやり方を批難し、息子の「金にモノ言わせて自分の希望を強引に通す」というエゴイズムを散々見せ付け・・・「あぁ、これはアメリカさんを遠回しに批難してるんですネ」と思わせておきながらも、息子が用意した特別病室でぬくぬくと入院生活を送り、息子が用意したヘロインでガンの痛みを和らげ、更には息子に「お前は自分に似た子を作れ」と父親の口から語らせるという矛盾。
この矛盾を紐解く重要な鍵として、父親が若かりし頃学会で出会った中国人美女に「文化大革命は素晴らしい」と語ったのが大失敗だった・・・というエピソードが何か意味があるんじゃないかと思う訳です。
中国美女は父親が語った「文革は素晴らしい成功を収めた」という言葉に眉をひそめる。何故なら彼女の家庭は知識者層で、彼女の父親は文革により殺され、母親も虐待を受け、更に彼女は粛清として当時豚小屋掃除をさせられていたからだ。エセ社会主義者の父親には想像も付かなかった「文革の実態」を知って、自分がいかに愚かだったかと自嘲しながら語る父親の姿は、アメリカのやり方を揶揄しながらも結局は資本主義を支持している・・・アメリカを批難しているようなスタイル持ちながらも、実は社会主義を嘲笑っている印象を受けるのです。
一応まとめとして、社会主義者の父親と資本主義者の息子はお互いを慈しみ合い、社会主義者は資本主義者に向かって「お前は自分に似た子を作りなさい」と語り、資本主義者は涙しながら社会主義者と抱擁する訳です。 ・・・ものすごくイヤラシイ解釈をしていると我ながら思うのですが、ぴよの率直な感想はコレですわ(苦笑)
いよいよ自分の死期が迫っている事を実感している父が「死にたくない」「死ぬ意味を見出せない」と言って嘆くシーンには身につまされるモノがありました。 ぴよはパパをガンで亡くしていますが、正にパパがこの状態だったんですよ。パパは「俺は80歳まで生きるぞ!」「まだまだ死んでたまるもんか!!」と病室のベッドで毎日のように口にしていました。 最期の最期まで「生きる」事に執着し、絶対に諦めなかったパパ。それでも65歳という年齢で生を終えたパパ。 きっとぴよのパパも「死ぬ意味」など見出せなかった事でしょう。それはそれは「無念の死」だった事でしょう。
でもこの作品は、あれだけ生に執着した父親をぴよには理解不能な死に方にさせるのです。 ただ苦痛から逃れたいから?それとも「死ぬ意味」を見出せたと言うの? ここでも死に方が何かイヤラシイ意味に取れて、かなり意味深な作品だなぁと思う訳です。
あれだけ「死ぬ意味が見出せない」と言っていた社会主義者は、資本主義者に頼んで命を終えようとする。 資本主義に迎合し、資本主義を受け入れ、そして資本主義に葬り去ってもらう社会主義。 ・・・ぴよが考え過ぎなんですかね?(^-^;
すっごいヒューマン・ドラマを見てるハズなのに、何か頭の体操をさせられているよーな。 そういう意味ではなかなかトリッキーで面白い作品だなぁ〜と思ったんですけどネ(笑)
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