監督:犬童一心 出演:妻夫木聡 池脇千鶴 新屋英子、他 オススメ度:☆☆☆☆+
【あらすじ】 恒夫は雀荘でアルバイトをしながら1人暮らしをしている大学生。バイト先の雀荘で最近ちょっとした話題になっているのが、早朝乳母車を押しながら歩いているあるばあさんの事だ。客達は「あのばあさんはヤクザの運び屋で、乳母車の中には大金かヤクが入っている」等と口々に勝手な事を言っている。 ある朝恒夫は噂のばあさんと乳母車に遭遇。何と乳母車の中には足の不自由なばあさんの孫が載っていたのだ。自らをサガンの小説の登場人物の名前「ジョゼ」と名乗る少女の不思議な性格に、興味惹かれる恒夫だったが・・・
【感想】 田辺聖子氏の同名小説の映画化。田辺氏の小説って学生時代にすこーし読んだ程度でほとんど知りません。源氏物語を判り易く小説にしている人?くらいの知識(こんなの知識でも何でもありませんわね。苦笑)
イマドキのどこにでもいる大学生・恒夫を、妻夫木クンが好演。 彼の活躍は目覚しいものがありますが(ぴよも彼の出演映画は何本か見ている)、正直言って特に「こ、コイツはすんげー演技がウマい!」と関心する程のモノを感じた事は今までなかったですネ。 「ちょっと可愛い顔してるけど、どこにでもいそーなフツーの兄ちゃんぢゃん」ってのがぴよの今までの印象なんですが、今作品に限って言えば、この「フツーの兄ちゃん」な妻夫木クンだからこそピタリとハマっていたというトコロでしょう。
何より、この映画はヒロイン・ジョゼを演じた池脇千鶴ちゃんのキャラクター勝ちでしょう! 彼女の事もほとんど知りませんが(ジブリの失敗作品「猫の恩返し」の主人公の声をやった事くらいしか知らん)、彼女が作り出すキャラクターの雰囲気が実に良かった。
足が不自由でばあさんから「お前は壊れとるから」と、その存在すら隠される少女。 ばあさんと2人きりの生活のせいか、ばあさんそっくりのアケスケでぶっきらぼうな口調。 ばあさんがゴミ置き場から拾って来る本が唯一の友達。 ――自分の体を判っているから1人でも生きていけると虚勢を張っていても、実は誰かに依存したい、誰かに支えて欲しいと心が叫ぶ、ジョゼの切ないまでの思いを、池脇千鶴ちゃんが見事に体当たりの演技で色鮮やかに見せてくれている。
小さなエピソードを繋いで、徐々に恒夫がジョゼに心動かして行く。ここの辺りすごく自然だし、恒夫がジョゼに段々惹かれて行くのを見ながら観客もやっぱりジョゼの魅力の虜になって行くんですわ。
この一つ一つのエピソードも何とも気が利いている。特にぴよがお気に入りなのはジョゼの子供時代―施設で出会った淋しい少年と親子関係を勝手に作り上げるくだり。ジョゼが勝手に息子呼ばわりする青年・幸治を若手俳優の新井浩文が演じているんだけど、彼のキャラもまた秀逸だったなぁ〜♪
ヒロインが身障者だからと言って、決してお涙頂戴な「身障者との麗しい恋愛」という作りにしていない。 多少の同情と多少の興味から入って、彼女の魅力を1つずつ見つけ、お互いを求め合う・・・ごく普通の青年がごく普通に恋をして、そしてごく普通に恋愛の壁にぶち当たる。その恋愛の壁は彼女が身障者だったからではないと思う。ただ彼女が余りに純粋過ぎたから。
恒夫の背中には、ジョゼの純粋な心は余りに荷が重過ぎたのだろう。 「車椅子を買おうよ」と提案する恒夫に「アンタが背負ってくれればそれでいい」と語り、恒夫の背中に寄り添うジョゼ。 それを聞いた恒夫の暗い目が全てを物語っているようで切なかった。
原作とどれくらいトーンが違うのか判らないけど、映画としてこの作品はパーフェクトに仕上がっていると思う。 切なくて儚い、若過ぎた青年時代の恋愛を瑞々しく表現した一作。オススメです!
|