監督:ピーター・ミュラン 出演:ノーラ=ジェーン・ヌーン アンヌ=マリー・ダフ ドロシー・ダフィ、他 オススメ度:☆☆☆+
【あらすじ】 1964年アイルランド。レイプされた少女マーガレット、美しい孤児バーナデット、そして未婚のまま子供を産んだローズ。三人の少女がマグダレン修道院に送られて来た。 マグダレン修道院―キリストによって改心した娼婦マグダラのマリアにちなんで名付けられたその修道院は、性的に“墜落した”女性たちを神の名の下に矯正する施設。入所した女達は囚人のような制服を着て洗濯部屋で働かされ、私語は厳禁。家族と会う事も外部の人間に接触する事も禁じられたこの修道院で、彼女達は生きて行かなくてはならなかったのだ。
【感想】 2002年のヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞した作品。このマグダレン修道院は1996年までアイルランドに実在し、延べ3万人もの女性がこの修道院で過酷な労働を強いられ、そしてその多くがこの地で不遇の死を遂げたそうです。 この映画はかつてマグダレン修道院で「奉仕と浄化」という名の虐待を受けた女性達から実際にインタビューを取り、そして忠実に再現した恐ろしい映画だ。
元々この修道院は、体を売って働くような女性、カトリックの教義に反するような性的に堕落した生活を送る女性の更正施設としてスタートしたのだが、この映画に出てくる3人の少女は、1人はレイプされ、1人は未婚の母になり、そして1人は孤児院にいたのだがたまたま容姿が美しく男の目を惹いた・・・ 特に彼女らに問題はないものの(未婚の母は教義に反するかも?でもマリア様だって未婚で子供産んでるやんけ)簡単に言ってしまえば「家族のお荷物」、我が子が辱めを受けて世間体が悪いから、又は孤児院で扱いに困ったからという理由だけで修道院に送られてしまったのだ。
実際にこういう「お荷物扱い」されて修道院送りになった女性は多かったんだろうと思う。 それにしても、そこまでして守りたい世間体って一体何だったのでしょうか?映画中修道院から脱走して家族の元に逃げた女性がいるのだが、父親が怒り狂って我が子を修道院に連れ戻すシーンがある。 父親は顔を真っ赤にして怒り「お前に帰る家はない!」と我が子に吐き捨てるように言うんだけど、カトリックという厳しい戒律の中にあっては我が子への愛情よりも世間体の方が重要視されていたという事なんでしょうか? どーにも解せない感覚で、アイルランド人達と膝突き合わせて小1時間語説教垂れたい気分です。(^_^;)
長い間この修道院にいると、入所させられた女性も、そしてそこで監視している修道女達も精神が病んで来る。 「自分達は堕落した女達を更正させてやってるんだ」という大義名分が、修道女達を恐ろしいサディストにする。そしてそのサディスト達に長きに渡り虐められ続ける事で、卑屈になり人間性を失う女性達・・・その中にあって「絶対にここから抜け出してやるぅ!」という希望を失わなかった少女達にスポットを当てて映画は見せているけど、実際はどうだったんだろうか?
1996年になってようやくマグダレン修道院は廃止された。 まだ廃止されて10年も経っていないのですよ。この修道院から解き放たれた数多くの女性達は、今尚アイルランド各地でトラウマを抱えて生きているのです。カトリック教会の弱体に伴い廃止されただけで、この国の敬虔なカトリック教徒達の感覚というのは、今も「修道院帰りの女」というレッテルで彼女達を蔑視しているのではないだろうか?
宗教と宗教が生み出す倫理と、それに踊らされる人間の弱い心。 決して「カトリック=悪」だなんてぴよは言っていませんよ。 ただ、それにのめり込み敬虔であるが故に生み出される悲劇というのは、何と恐ろしい事か。 今世界各地で勃発している戦争のほとんどは、この「宗教の倫理観」または「政治による洗脳」によって引き起こされている事を考えると、この映画の話というのはただ単に「こんな気の毒な女性達がいたんだねぇ」だけで終わらせていい話ではないような気がする。
ふーん。珍しくマジメな事を考えてしまったぴよです。
|