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遠子(桜井都)

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 たとえば君と。

 たとえば、もし。







「…ここじゃない場所で会えてたら、どうだったんだろう」
「ここじゃない?」
 聞き返した彼に、金の髪の彼女は遠くを見るようなまなざしで笑った。
「ああ。…ヘリオポリスみたいな平和がずっと続いてて、あそこにいたキラたちみたいに」
 平和であることが『普通』な世界で。
 ただそこで笑って、ときどき忙しいけどほとんどが穏やかで。
「ほら、学校とかで会ってさ」
「…クラスが同じだったり?」
 くすりと小さく笑った彼の緑の目がやさしかった。
「うん。…同じクラスになって、クラブとか入ってて…」
「……………」
 弟からわずかに聞いただけの、彼の学校生活を彼女は懸命に思い出す。
 学校帰りに友達と買い食いをしたり、目的はないけれどもたくさんの店を覗き見したり、分かれ道で立ち止まったままずっと話をしたり。
 少なくとも、明日の命を思って泣かない日々で。
「……そういうところで、会いたかった」
 彼女の伸ばした手が、彼の服を掴んだ。離れていくのを拒むように。
「会わなきゃよかったなんて絶対思わないけど、もっと、もっと…」
 もっと違う、素敵な出会いをしたかった。
 出会うそばから命の取り合いをしたり、銃とナイフの向け合いではなく。
「…………」
 元より器用になれない彼は、何も言えなかった。
 彼女の痛みは手に取るようにわかった。出会いを素直に喜べないきもち。平穏な舞台で、幸せな出会いが出来なかった自分たち。だから結局こうして離れる道しかなくて。
 そっと彼は服を掴む彼女の手を取った。ちいさく、あたたかな手。この手のぬくもりこそが命だ。
「…それでも俺は、幸せだと思う」
 言葉が正しいかどうかわからない。けれどせめて、自分の心にもっとも近しい言葉で彼女に伝えたかった。
 ゆるゆると顔を上げた彼女の金褐色の目に、浮かび上がる水の膜。
 引き寄せて抱きしめて目を閉じた。ほんの少しでもこの思いが伝わってくれればいいと願った。
「君に会えて、幸せだと思ってる」
 かたちは悲しいものだったけれど、後悔はない。この手に守るものの重みを教えてくれたひと。
「ありがとう。…君に会えてよかった」
 二度目の言葉。一度めのあの日は、こんな風に二人の未来を思う猶予はなくて。
 嗚咽を漏らしながら抱きしめ返してきた彼女が、今のすべてだと思った。

2004年11月25日(木)

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