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遠子(桜井都)

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 ハッピーバースディ(笛)(渋沢と椎名とその他)。

 恨むなら自分か神様でも恨め。









 その青年のような外見をした少年は、その日彼にこう言ったのだ。

「椎名、誕生日おめでとう」

 祝われた本人は、認めたくないが本日から数ヶ月年下になるチームメイトに向かって、にっこりと笑った。

「嫌味なら他に言ったほうがいいんじゃない、渋沢」

 え、と純粋な好意のみでおめでとうと告げたはずの渋沢克朗は絶句した。
 その顔を間抜け面だと言わんばかりに翼は鼻で笑う。

「あのさあ、そもそも男同士で誕生日おめでとうなんて言われたって気色悪くない? しかも十六にもなって誕生日がめでたいなんて本気で思ってる? 俺そういう馴れ合いみたいな風潮すっげ嫌いなんだけど。ウザいから二度と言うなよ」

 言うだけ言うと、彼はそのまますたすたと遠くへ行ってしまった。
 残された渋沢は唖然とし、そばにいた他のチームメイトたちを見る。

「なあ、俺なにか悪いこと言ったのか?」
「別に先輩は悪くないッスよ!」

 しかし、否定してくれたのは藤代だけだった。
 その会話を丸聞きしていた木田は苦笑しているし、郭は小さなためいきをつき、若菜は「気付けよ」とぼそっと呟き、水野は目を逸らした。他の面子も似たりよったりだ。

「…黒川」

 困った渋沢が、翼とこの場で最も親しいと判断した人間に話を振ると、彼はあっさり「仕方ねえよ」と言った。

「何が」
「渋沢、7月生まれだろ?」
「ああ」
「で、翼は4月生まれ。学年変わらなくてもお前のほうが年下だろ?」
「それがどうかしたのか?」

 渋沢に悪意はなかった。彼は心底から翼に邪険にされた理由がわかっていない。
 見かねた郭が会話に入った。

「年下に身長差つけられてるのがイヤなんでしょ」
「……は?」
「渋沢と椎名、身長差がすごいあるのに、椎名のほうが年上。その上このメンバーの中だと椎名が今一番年上でしょ? でも身長は下から数えたほうが早い。ちょっと気にしてるんじゃないの? 椎名プライド高いしね」
「だっつーのに、よりによってお前が『誕生日おめでとう』とか言うから。あいつけっこームカついたんじゃね?」
「………………」

 そんなことで。
 正直渋沢はそう思ったが、それは翼にはないものを持っている人間の奢りかもしれないとすぐに己を反省した。

「でも、たまたまですよ。翼さん今日はちょっと機嫌悪かったし、タイミングが悪かっただけだと思います」

 風祭のフォローが一同の胸に染みる。

「全く気付いてなかったってだけで充分無神経って気ィするけどなー」
「結人、人それぞれだろ」
「気にすることないんじゃない? むしろわざわざ嫌味だって言い返すほうこそ気にしすぎなんだと思うけど」

 慰めなのかそうでないのかよくわからないロッサ三人組はマイペースだった。
 それでも傷つけたことに変わりはないだろう。根が生真面目な渋沢は反省と同時に申し訳なさが心に浮かんだ。

「…ちょっと、行ってくる」

 さして悩む前に決然と顔を上げ、渋沢は歩き出していた。
 それを見送りつつ、残った少年たちはやれやれとそれぞれの表情を浮かべた。

「あーあ、渋沢って苦労性」
「鈍いんだか鋭いんだかわかんねー奴だよなー」
「…いつか胃を壊さなければいいな」
「いい人なんですけどね」
「うちの部長だった頃もあんな感じでやってたぜ」


 さてさて、そんな武蔵野森の元部長。
 どうにか本日誕生日の同学年を掴まえ、真摯な気持ちで謝ったものの、またしても「ばか?」の一言を喰らい敢え無く撃沈。
 根本では嫌い合っていないはずのこの二人、障害は目下身長30センチ差にあった。







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 発掘してみた、椎名くん誕生日話。
 彼の誕生日は4月19日ですが。

 きつい美人さんに振り回される大きな人克朗さんを書きたかったんだと思います、これ書いてたとき。あと地味に選抜メンバーとか。
 笛は人数多いから書ききれないよね。オールキャラでやろうとはあまりに思えない(…というか書ける人が随分限られる)。

2003年10月04日(土)

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