Sotto voce
DiaryINDEX|past|will
前回日記で綴った、 突然旅立って行った大切な友人の命日の日。
朝、7時過ぎに目が覚めたあと、 そのことばかりが思い出されて結局眠れず。 その日休日だった、隣で眠る人を起こすのも申し訳なくて、 寝室を出て、隣の部屋でぼんやりと考え事をしていた。
一緒に持ってきた本のページをめくりながらも 頭の中は友人のことで占められていて、 内容はちっとも頭に入ってこない状態で。
そんな感じでどれだけ時間が経ったのか。
突然、ガタン、と物音がして、 次に私の名を呼ぶ声がして。 その直後、勢いよく開かれたドアの向こうに うろたえた表情の彼がいた。
「隣にいたはずの紗月がいないから… カバンはあるけど物音はしないし、 俺をおいてどこに行ったかと思ったじゃないか!」
寝起きのせいなのか、 私がいないことに驚いたのか、 彼の言葉はしどろもどろで。 何かいいたいけど思考がついていかないもどかしさなのか、 彼の表情は、迷い子のようで。
それは、私たちが出会ってから2ヶ月、 こうして、休日を一緒に過ごすようになってから 彼が初めて見せた「弱さ」だったのかもしれない。
思えば、出会ってからずっと、 彼のほうが立場が強いというか、 彼の押しの強さ、強気な態度、 常にこちらの先手を打ってくる行動、 それに私は翻弄されっぱなしだった。
「ごめんね、なんか眠れなくて。 せっかくの休みだし、 ぐっすり寝てたから起こしちゃ悪いなって思って」
そんな言い訳をする私の手を引いて 彼は再びもとの部屋に戻る。
「そんなの関係ない、ここにいて。 紗月がいなくて、どうしようかと思った」
私を布団の中に引きずり込んで、 胸元に顔を埋めながら そんなことをぽつりぽつりとつぶやく彼が たまらなく愛おしく思えて。
「大丈夫、私はどこにも行かないよ?」
彼を抱きしめながら、 彼の髪を梳きながら、 改めて、この人と一緒にいたいな、って思った。
そして思った、 空の上の彼に、この愛しい人を会わせたかった。
私たちの未来はどうなってるのか正直わからないけど、 もう9割諦めとその気が持てなかった、 「結婚」という選択があるのならば
「紗月の結婚式には何が何でも駆けつけるから!」
生前の彼と交わした約束を叶えたかった。
そういえば、友人の命日を ひとりで彼をしのぶのではなく、 誰かと一緒に過ごすことで このこみ上げる寂しさと 彼の死をいまだ認められない苦しさを 紛らわすことが出来たのは、 彼が旅立って9年目にして初めてだった。
|