Sotto voce
DiaryINDEX|past|will
鹿児島ローカルの番組で、 かつて好きだった人の実家のお店が出ていた。
私がかつて一人で暮らした街で、 コーヒーのうまい店といえばここ、と 誰にでも紹介できるお店が、その人の実家だった。
19歳?20歳??の頃、友達に紹介されてその店を知り。 自分にはまだ敷居が高いと思える雰囲気のその店で、 彼と、彼のお父様が美味しいコーヒーを振舞っていた。
「あの店の人、かっこいいよね」 あの店に通う人は皆そう口にしていた。 確かに、20代の頃のあの人はかっこよかった。 でも、その時はなんとも思えなかった。
それから十数年たち、再びその人に出会った時、 あの20代の頃の輝きはなかったけれど、 あの頃よりは身近に彼と接する機会があったせいか、 40前の彼に心奪われた。
彼はわけあって勘当同然で家をでて、 紆余曲折あって、十数年のちに故郷へ帰ってきた。 今でも実家の敷居はまたげない彼だけど、 彼が入れてくれたコーヒー、作ってくれた料理は 実家のお店で味わった、あの味と少しも変わらなくて。
今ではその店は、 彼の弟さんが2店舗目を任されるまでになっている。
画面の向こうにいたのは、弟さん。
スリムな兄と比べると、少しふっくらしているけど。 やっぱりそこは同じDNA、あの人にどこか似ているし、声もそっくりだ。
あの人に会うことはもうないだろう、 あの人には、ずっと思い続けてやっと手に入れた恋人がいる。 その恋人には配偶者がいるけれど、 それでもいいと、その人を近くで見ていられるなら一生ひとりでもいい、 そんな覚悟を抱いて、日々を生き抜いている彼。
私も彼への気持ちについては、とっくに整理できたはずなのに。 思い出の場所、あの人に似た人を間近にみると、 心の奥の、封印した気持ちが少しつつかれるような、 そんな感覚に陥ってしまった。
久々に、弟さんのいるほうでなく、 あの人と出会った、彼の実家のお店に行きたいと思った。 カウンターにあの人の姿はないのだけれど、 あの頃の思い出と、美味しいコーヒーに、触れたくなって。
|