どうして、あたしは彼を選んだんだろう。
200通以上のメールから。あたしはmasayaを選んだ。
変なメールを書く子で いつもテキトーで それでいて、適切で 受け答えが楽しくて あたしの我がままもサラっと受け流して 無理な約束はしなくて 好きだとかは全然言ってくれなくて でもいつも優しく抱き締めてくれて あたしはmasayaに癒されて 彼といるといつも笑顔でいられて 喧嘩も一度もしたことなくて えらひえらひと褒められるととても嬉しくて 落ち込んでも凹んでもよしよしと背中を叩かれると立ち直って
そうして、あたしはmasayaと8ヶ月間を過ごした。
『不安になったらいつでも言っておくれ。 わかってあげたいけど、わからないこともあるから。』
そんな言葉に甘えて、たくさんの我がままや愚痴を言った。 それでもいつもmasayaは笑って、テキトーにかわして あたしはいつも、 怒ったり拗ねたり凹んだ笑ったり くるくると感情的で それでもmasayaはいつも一定の感情で接してくれた。
年末からの3ヶ月。 masayaがこの地を離れる事が決まってからは不安定でどうしようもなく ぐずぐずと泣いてばかりいたけれど あたしにとって、この3ヶ月間は準備と覚悟をするために 必要な時間だったのかもしれない。
masayaが行ってしまって、 一晩経った今朝。 祈るような気持ちでメールを送った。
おはやう。
しばらくして、masayaからメールが届いた。
おはやう。
何度かメールを交わして 昨日までとなんのかわりもなく masayaは下らない事ばかりを伝えて来て 夕方の電話も、いつもと同じはじまりで まだ、すぐそこにいるみたいな気がした。
前の彼と別れた時、凹んでいたあたしにmasayaが言った。
「嫌いになる必要なんてないんじゃない? 好きなら好きでそれでいいだろう。」
離れたからといって、嫌いになる必要はなくて 相変わらずあたしはmasayaが好きで 相変わらずmasayaはテキトーに相手をしてくれて 相変わらずあたしは勝手に泣いて勝手に凹んで そうして勝手に癒される。 そう、何も変わる事はないように見えた。
ただ、あたしが愛した=青い部屋=はもうどこにもない。
今度逢う時はどんなmasayaになっているんだろう。 『どーも』と笑って、相変わらずなのかもしれないなと あたしはそう思って笑ってみた。
それは泣き笑いだったけど、 笑ってみると少しだけ元気になれたような気がした。
=End=
2002年03月25日(月) |
月曜日/花冷え『気ヲツケテ、マタネ。』 |
月曜日。 今日本当にmasayaは行ってしまう。
なんだかまだ信じられなくて。
朝起きてメールを入れる。おはやう。 すぐに帰って来る。おはやう。
支度をして、車に乗り込んだ。 途中の桜並木はもうすぐ満開。 天気予報は晴れだが、風は冷たい。
花冷え。だろうか?
駐車場に着くと、masayaの車がない。 不安になってメールを入れる。
出動したの?
家の前に置いてるんだよ。
車を置いて、通い慣れた道をテクテクと歩く。 駐車場前のコンビニ。
masayaのいきつけの煙草屋。
歩道橋の下を右に曲って、住宅地に入る。
築何年経つんだろうか? 今どき珍しい文化住宅。 一階の端から2番目。102号室。 一番奥は真っ青な砂壁の=青い部屋=
見なれた車が停まっている。 ドアは開け放たれていて、入ると荷物が積み上げられていて 何もない部屋で、masayaがいつもの笑顔で迎えてくれた。
午前中はガスと電気と水道の閉栓が来るんだよ。 そか。
肌寒い中を歩いて来たので、手が冷たかった。 抱き着いて、masayaのTシャツの中に両手を入れる。
やめてくれよぉ。人でなしかぁ?人間としてどうかと思うぞぉ。冷たいっ!
いいぢゃん。冷たいんだもん。あったかいよう。
ゆうちゃんはあったかくても俺は冷たいぞぉ。
いいぢゃん。
そうやって、少しの間じゃれあった。 もうこんなふうにじゃれることもできない。だからいいぢゃない。
ガスと電気の清算をして、masayaは買い物に行くという。 まだ水道料金の清算が来ていないので、あたしは留守番をすることにした。 何もない青い部屋。
ガランとして、広くて、壁だけが真っ青で。 masayaの青い毛布に包まって、天井を見上げて、 少し泣きそうになった。
バタバタと忙しく午前中を過ごして、 昼食は、今まで行けなかった店で、行きたかった店で 中華料理を食べて、口許にごはんつぶをつけるmasayaを見て、あたしは笑う。
子供みたいだよ。masayaくん。
部屋に戻るとやっぱり寒くて、 少しだけ陽の差す窓際に並んで座った。
もう、行っちゃうんだね。ほんとに行っちゃうんだよね。
あい。
淋しいよぉ。
抑えていた涙が少し溢れる。抱き着いて、そのまま少し泣いた。 masayaはあたしを抱き締めて、背中を撫でて、何度もキスをした。
大丈夫か?
…大丈夫なんかじゃない。
そう言って、また少し泣いた。
何もない部屋で、 一枚の青い毛布だけで 時間がないあたしたちは 服も着たままで、慌ただしく抱き合った。
masayaの躯。 重み。背中の感触。 首筋。唇。抱き締める腕。 明日からはもうここにいないと思うとたまらく辛い。 慌ただしいセックス。
抱き合う事で淋しさが埋まるわけではないが あたしは抱かれたかった。 何度かあたしはキモチイイと呟いて masayaも同じ言葉を囁いて ひときわ動きが激しくなって、彼はあたしにもう我慢できないと伝える。
モウ、イクヨ…。 イチバンオクデ…オネガイ。 彼の痙攣を受け止めて 彼の体液を受け止めて あたしは果てる。快感。
短い抱擁の後、またあたしたちは何ごともなかったかのように 引っ越しの準備を始めた。
荷物を運んで、あたしはもう帰らないとイケナイ時間。 別れを惜しむ暇もないほど、忙しく時間は過ぎて行った。
「後で必ず寄るから。」
masayaはそう言う。
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夕方になっても連絡はない。
もしかして、もう行ってしまったんじゃないかと 別れの言葉も伝えないままに勝手に出発してしまったのかと 不安になってメールを入れた。
まだいる?
いるにはいます。終わらないよ。
何が終わらないのかわからないまま。 あたしはただ待つ。 しばらくするとそうmasayaからメールが入る。
今から持って行ってもいい?
ちょうど、あたしは出れない時間帯で レスを返す事もままならず、そのまま15分程が過ぎた。
もう時間がない。ていうか、来てるんだ。
どこ?
近くまで。
もう近所まで来てるらしい。 近くのコンビニまで来て貰って、あたしは口実を見つけて一瞬だけ外に出て、 荷物をいっぱい積んだmasayaの車に駆け寄る。
ごめんね。
いへいへ。はい、ゆうちゃんに渡す物。
彼が持って来たのは、粘着ロールの掃除道具とお茶の缶と masayaの名義のガソリンスタンドのカード。 苦笑してしまう。
ありがとう。
いへいへ。
車のドアを開けて、一瞬のキス。 軽くあたしの頭を撫でて、masayaは言う。
ちゃんと連絡するから。ひとでなしじゃないぞ。
うん。ありがとう。気をつけて。
いつものように、 普段と全く変わりなく、masayaはじゃあと手を上げて 車を発進させた。
本当に、別れを惜しむ暇もなくて 涙を流す暇もなくて あっと言う間の出来事だった。
家に戻って、メールを送る。言いたかったこと。 いつも言いたくても言わなかったこと。
masayaくん。ありがとう。 言い忘れた。大好き。
ありがと。 俺も好きだから嬉しいぞ。
最後まで騙されどおしだったよ。泣。 ひとでなしにならないでね。約束。
あい。そうします。
最後のメールも いつもと全く同じようなテキトー言葉だった。
朝起きて、すぐに支度をした。
昨日逢えなかったので、少しでも長い時間一緒に居たかった。 メールを入れてもレスはない。きっと寝ているんだろう。 そのまま、車で彼の家に向かう。
駐車場から歩いて、家に着く寸前に電話をかけてみた。
一度目。切られた。ねぼけてるんだろうか? 二度目。電源が入っていません。 三度目。…あい。もしもし。 開けてくださひ。 あい。
扉が開くと、寝ぼけた姿のmasayaが立っていた。 鍵を開けるとまた布団へ戻って行く。 …やっぱり、眠いのね。
ゴロゴロと布団の中で抱き着いてみたり、ちょっかいを出したりすると ううううん。 眉間に皺を寄せてmasayaは嫌がった。…本当に眠いのね。 仕方がないので、一緒に眠る事にした。 もう、こんな時間も過ごせなくなる。 一緒にいるだけでも幸せだけど、ちゃんと動いてるmasayaが見たかったな。 そんな事を考えながら、腕枕でウトウトと眠ってしまった。
1時間ほどウトウトと寝て、 masayaはねぼけたままであたしの身体を弄って、 あたしもゆるやかな快感にそのまま身をまかせて。 そのまま、あたしたちは抱き合う。
あたしはこれが本当に最後かもと思って masayaの身体を覚えておこうと思った。
綺麗な身体。 無駄な脂肪がほとんどなくて 鎖骨が綺麗に浮き出ている。 あたしはmasayaの鎖骨が好きで 何度もここを噛んでは痛いと言われた。 少しの前戯で、あたしはすんなりと彼を受け入れる。 快感。いつもの倍程感じるのは気のせい? masayaの首に手をまわすと いつものように抱き上げられて、あたしが上になる。
あっ、、当たるの、、、。
子宮口だろうか?コリコリとした感触。 痛いような、それでいて甘美な快感。
当たってるね。
うん…。
そのまま何度か果てて、あたしはmasayaの上に倒れこんだ。
ねぇ、すごいの。感じるの。
何度もあたしは貪欲に果てて masayaはあたしの中で果てる。 彼の痙攣を躯の中心で感じる。 …幸せだ、あたし。
後始末をしてるmasayaが呟いた。
あ、血だぁ。
当たってたもんね。だからだよぉ、仕方ないかも。
そいえば、masayaとのセックスの後の出血であたしの子宮筋腫が発覚したなぁ。 なんて思い返してみた。
ねぇ。ディスカウントストアに連れてってよ。
ん?良いよ。いつ。
今から。ホワイトデーだぁ!
はいはい。
支度をして、一緒に部屋を出る。 あたしの車で、masayaに道をナビしてもらって、到着。 小さい可愛いシルバーのネックレスを masayaに買って貰った。
2種類のペンダントヘッドを選ぶ。
ねぇ、どっちがいいと思う?
俺はこっちのがいいなぁ。
じゃぁ、それにする。
ネックレスは程よい大きさで、 クロスの中心に花のような彫刻があって、 高いものではないけど、あたしには似合ってる。
何かね、残るものが欲しかったのよ。 身につけるものが欲しかったのよ。 すぐに忘れないようにね。 ほんと、無理矢理買わせちゃったなぁ。えへ。
だって、こうでもしないとシレっとした顔で、 知らん顔して、masayaは行っちゃうでしょ?
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