おばばが近所のお友達と一緒に、2泊3日の旅行に出かけることになった。
平日の2泊3日ってことはですよ?あたしは仕事だっつーの。
「あたしがカレー作るから平気平気」
などと調子のいいことを言っていた娘だったが、あいにく部活の後にバレエのレッスンに直行しなければならず、作る時間などない。
仕事に行く前に作っていくことにした。
「ご飯は自分で炊くからいいよ」
そう、そうなのだ。息子はとりあえず、ご飯だけは炊ける。
「じゃあ、ご飯だけはお願いね。カレーは作っていくから」
洗濯をしながらことこととカレーを作り、はたと気付いた。
食べるときどうやって温めるのだ?
娘ならまだしも、息子はガスコンロの付け方はまだ教えてない。
まかり間違って、火事にでもなったら、と思うと不安になったので、置手紙に、
「カレーをあたためるときはレンジであたためてね」
と書き残し、仕事に出かけた。
道すがらだんだんと不安になってきた。
留守番をすることはあっても、こんなに長時間、しかも食事がらみで留守番するのは初めてのことだ。
いてもたってもいられず、休憩時間に自宅に電話をすると、
「あ、ママ?今ね、K君と遊んでる」
のん気な声が聞こえてきた。
ちょっとほっとして、時間どおりに仕事を終え、また、電話すると、
「ご飯?食べたよ。ジュースがないから買ってきて」
と実にのん気な答えが返ってきた。
折りしも雨の中ずっしりと来る1.5リットルのペットボトルを抱え、大急ぎで帰宅した。
玄関を開けると、
「ただいま〜!大丈夫だった?」
大きな声で声をかけたが、当の息子は生返事。
部屋に行くとアニメなんか観ています。(笑)
「ご飯食べたの?ちゃんと温められた?」
「うん、大丈夫」
いつもなら抱きついてくるのに、それもなし。
そういえば、先日も、隣の奥さんが、
「昨日、雨が降ってきたから、お洗濯物、と思って声をかけたらゆう君が出てきて一生懸命しまってたわよ」
と言っていたのだっけ。
知らない間に、ずいぶんと大人になったみたいだ。
あたしのマイは非通知です。
「一歩売り場に立ったら、あなたたちは女優なの!何があっても演じなければならない」
以前の上司の言葉は常に脳裏の片隅にある。
「辛いこと、苦しいことは絶対見せない。それが美学」
その知人様の言葉もそれに通じるものがあって。
じゃあ、と思う。
常に演じつづける必要はあるのだろうか。
己がいる場の、その時々に応じて、役割分担を演じきることが必要なのだろうか、と。
素である自分は一体どこにあるのか。
楽しいことばかりが人生ではない。
年に1度の記念日を彩るのが、偽りではなく、本物の笑顔であるべきなのは言うまでもないのに。
湧き上がる苦い想いに、蓋をして、満面の笑みを浮かべて祝うのだ。
さあ。
記念日の詰まった10月が始まりました。
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