出勤してすぐに、かおりんが血相変えて動き回っている。
「おはようございます!うららさん」
「おはようございます、何かあったんですか?」
「実はですね、DB(商品部)の○○さんから電話がありまして」
「何のDB?」
「いや、それはどうでもいいというか」
「いや、大事っしょ?何のDBかで話がわかりやすいというか」
「いやいやいや、それはともかく、委託のサンダルの返品が昨日までだったらしくて、今日中にやってくれ、と電話がかかってきたんです」
「ああ、靴のDBなのね。で、今からやるんですか?結構あるんですか?」
「ええ、ちょっと、夕方までには終わらせたいと思うんで、ちょっと裏にこもります。あと、今売り場Yさんひとりなんでよろしくお願いします」
ゆっくりデータを見る暇もなく、売り場に行き、スケジュールも確認せずにYさんとレジを交代する。
今日はかおりんの担当商品のみのセール準備だ。しかも相当な量あるため、手伝う気満々でやってきたあたしではあったが、しょっぱなからそんな状態で、やる気をそがれた。
まあ、緊急なら仕方ない、とレジに入りながらYさんのお手伝いをしていたら、かおりんが戻ってきた。
「ありがとうございました」
「終わったんですか?早かったですね?」
「いえ、まだなんですけど、区切りがいいんで、続きはまたあとでと思いまして」
続きといってもあと1時間もかからない作業のはず。
中途半端にやめるよりは一気に片付けた方がいいに決まってる。
「先に終わらせません?」
「いえ、でも、うららさんに悪いですし。レジの時間終わったら続きやりますから」
はたとここで気付いたのだが、実はこの時間のレジはかおりんだったのだ。
そのことについては先ほど何もお願いされてない、と気付いたとたんに、ぶち切れた。
「あのさ、今日って、セール準備すごくたくさんあるんだよね?Yさんひとりで朝からばたばたしてるよね?いくら急ぎの仕事とは言え、さっさと終わらせないと次がつっかえるよね?それともあたしが手伝うからいいとでも思ってる?悪いけど、あたしは一切手伝わないからね。人のことあてにしないでくれる?そうやって途中で作業止めたら、あっちもこっちも中途半端になるでしょ?それで帰る時間になって作業が全部中途半端になったらどうするわけ?誰かにやってもらうの?それだってあと持っていって送るだけでしょ?さっさと終わらせちゃった方がいいでしょ?発行した伝票だって目障りだから。レジはいいから、鬱陶しいから早く行きなさいよ!」
「はい・・・すみませんでした!」
口をはさむ隙も与えず、言い放つと、かおりんは血相を変えて続きに取り掛かるべく、走っていった。
そもそもその返品の指示だって、とっくに出ていたもので、かおりん自身が見落としていたものなのだ。
きちんと把握していれば、慌ててやる必要もなかったのに。
「あたしはバカは嫌いなんです」
「いや、本当はバカな振りをしてできるのかもしれませんよ」
ニヤニヤしながら言うかおりんに
「バカな振りをして『あたしバカだからできませーん』とか言う人はもっと嫌いだし」
と止めを刺す。
「年上の人って頼りがいがあっていいと思って」
好みのタイプの話でそんなことを言うかおりんに、
「年をとったからって必ずしも頼りがいがあるとは限らないでしょ?あなたみたいに」
身も蓋もなく攻撃してしまったあたしはほんとおとなげない。
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2006年09月25日(月) |
ただ笑うためではないのだろう。 |
元マネって言うのは、若かりしころは相当のやり手で、相手がどんな役職者だろうと納得できないことは頑として受け付けないほどのタフな人だったらしい。
いまだに彼の名前を出すと、本部の人の態度が一変するくらいだ。
そんな彼もここ数年、奥さんがガンで倒れ、その看病のために役職を失ったり、家庭中心の生活(もともと愛妻家なので、家庭は大事にしていたけれどそれにも増して)を送るようになって、ずいぶんとまるくなったように思う。
年齢もあるのかもしれないけれど、かなり穏やかになったな、と思う。
それはそれで、寂しいような気もする今日この頃だったりもするのだけれど。
そんな彼が、
「是非聴いてみて。貸してあげるから」
と貸してくれたのが、「きみまろスーパーライブ」のCD。
ドライブの最中に、笑いながら聴いているらしい。
毒を含んだ下ネタで、大笑いする観客の様子。
倦怠期すら過ぎた夫婦をネタにしたトークはなかなか面白かった。
でも、これを聴く元マネの心情を思うと、少し切なくなるのだ。
ガンと戦ってきたこの数年、奥さんとの日々は、いつなくしてしまうか知れない、と心のどこかで覚悟している。
「笑うことで免疫力が上がるんですよ。笑わない人はダメです」
奥さんの望みをできる限り叶えるべく、自分は興味のない韓国旅行に同行したり、奥さんが欲しいと言うブーツを探したり、傍で見ていてその姿は心温まると同時に切なくなる。
きみまろのCDに込められた奥さんへの愛情が伝わってきて、ちょっとしんみりとした秋の夜だった。
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どうも、仕事でトラブルに当たる確立高いうららです。
どういうわけか、ややこしいクレームやら災害やらなにやらに遭遇する機会が多いあたし。
もうちょっとしたら退社時間、と言う時間になって、他の売り場から案内されてきたお客さんが、とんでもなくクセのある人で。
「どうしても、これと同じバッグが欲しいんです」
使い込んだウエストポーチを指し示しながら、意気軒昂、居丈高に言われる。
それは、ここ最近扱っていない商品で、通常の発注はきかないし、もう入荷する可能性のほとんどない商品。
「現在取り扱っていない商品で、メーカーさんにも在庫がない可能性が高いお品物なんですよ」
と丁寧に説明したにも関わらず、
「いーいから探してください!北は北海道、南は九州まで、200店舗余りあるんだから他のお店の在庫も調べて取り寄せてください!」
急に逆上したように大声で言うものだから、近くにいたお客さんまでびっくりする始末。
「一応ですね、全店の在庫状況を調べまして、お探しすることは出来ます。ですが、先ほども申し上げました通り、100%おとりよせできる、と言うお約束はいたしかねますので、その点だけはご了承ください」
落ち着いてもらおうと、これまた丁寧に説明したつもりだったのだけれど、
「私は以前、ここで働いていたんです!お客に対して、商品がない、なんて言ってはいけないと社内教育で受けているはずです。どうしても欲しいんだから、なんとしても探してください!」
関係者ならなおさら、その大変さを思い、そこまで高圧的になることもなかろうと、思ったのだけれど。
実はこの手の「以前こちらで働いていた。店の人間はお客の言うことを絶対きかなくてはならない」的なクレームって言うのは意外と多く、自身が働いていたときの腹いせなのか、と思うことも多いのです。
とりあえず、商品を探すことにはなりましたが、商品の品番すらわからない状態で、古い台帳を引っ張り出し、何とかその商品を見つけ出し、メーカーに電話して、在庫を確認することが出来ましたが、あとの連絡はマネージャーにお願いしちゃいました。
連絡が終わったマネージャーは戻ってくるや否や、
「ごめんねー。いやな想いさせちゃって」
ひたすら謝られ。
つい先日も、紳士靴のクレームを受けたばかりなのでなおさらなのですが。
「そんな、謝られることはないですよ、むしろあたしがいるときに限って、こう言うややこしいトラブルが多い気がするんですよね。こちらこそかえって申し訳ないですよ」
と謝っちゃいました。
本当に、何かと事件が起きる日に遭遇してしまうので、以前、K嬢に
「うららさんて、厄介なことに当たる確立高いよね」
と、言われたことがあるほど。
「実はあたし、トラブルメーカーなのかもしれません」
神妙に言うと、
「またまたあ〜」
と笑い飛ばしてくれましたが。
いや、マジで。
ここ最近、いろんなものを引き寄せてる気がします。
良いことも悪いことも。
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2006年09月08日(金) |
スズキ君とかおりん。 |
入社して半年を過ぎ、そろそろその実力のほどが顕著になってくるのがこのころだと思います。
スズキ君。
当初はその人当たりのよさで、バンビちゃんよりは期待大だったのだけれど、単に人当たりがいいというだけで、全くその中身がないことが判明してきました。
言えばやる、言われたことはできる、しかし。
言われなければやらない、自分からは気づかない。
そして何より、1度言われたことを反復できない。
そんな彼のせいで、バイトのNちゃんがお客さんから大クレームをもらいました。
彼のせいにも関わらず、そのとき必死に謝罪している彼女のそばで、きちんと謝ることも出来ずに、Nちゃんは悔しさと情けなさで涙が出そうになったと言います。
そんなときに、そばにいたはずのかおりんは全くノータッチで、全てが終わってから、
「大丈夫だった?」
とNちゃんに尋ねただけで、一切関わろうとしなかったという話を聞き、そのことがまた、あたしをがっかりさせました。
社員だから、と立ててきたけれど、やっぱり何か違う気がしてきました。
教育モードに入りたいと思います。
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上半期の全店売上順位表が手元に届きました。
ひゃっほー!
担当商品がベスト10入りを果たしました!
やったね、あたし。
で、かなり浮かれて帰宅し、脳内物質でラリラリノリノリのあたしを、見事に打ちのめすことができるのは、この世にきっとひとりしかいないと思う。
浮かれすぎてると痛い目に遭うかも、とか、余計なことを考えなければ良かったのかな。
甘美なはずの祝杯は、いつしか苦いものになっていました。
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