日々雑感
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2004年06月21日(月) 中毒性

午前中から図書館へ。黙っているとあれこれ考えてしまってよくない。とにかく作業すること。手や身体を動かすこと。集中、集中と自分に言い聞かせつつ、文献を調べて、ひたすら読む。次々と目を通さねばならぬ書名が出てきて途方に暮れそうになるが、とりあえず集中。

室内にこもっていた反動か、帰り道に寄った本屋にて本を三冊衝動買いしてしまう。ハインリヒ・ベルの紀行もの、戦後の東プロシアにて医師をしていた人の日記、それにヨーゼフ・ロートの『ラデツキー行進曲』。本読みに疲れながら本を買って喜んでいるあたりが病気か。


2004年06月20日(日) どこへいった

最近、夢に色がない。目が覚めたあとでも、とにかく色の鮮やかさだけはっきりと憶えているような夢ばかり見ていたけれども、それがない。何かある部分が欠け落ちている気がして怖い。それが何かは分からないけれども、きっと大事な、あるいは大事であったものなのだ。

くもり。夕方から晴れ。気温が低いせいか、今日は外を歩く人も少ない。日の光が薄い。


2004年06月13日(日) 強さの理由

週末は北の方の街へ行った。泊めてもらったお宅にて、音大に通う留学生たちと知り合った。チェロが二人、バイオリン、それにクラリネット。そろって二十代に入ったばかり。試験の準備として人前で弾きたいということで、こちらは聴衆役として同席させてもらう。

クラリネットの女の子は、滞独一年目は毎日泣いてばかりだったと言っていた。単身外国へやって来て、楽器という常に自分自身とぎりぎりのところで勝負せねばならぬものに取り組んで、落ち込むことも、辛いことも多かったろう。けれども、これが自分の楽器だというものを持ち、投げ出さずにしっかりと手にしている。「決める」ということの強さを感じる。ときに迷うことがあっても、決めて、信じて、実行する。その積み重ねが彼女たちの芯をつくっている。

夜にはいっしょにバーベキューをして、山ほどのソーセージと玉ねぎを食べた。皆食欲旺盛。たのもしい限り。


2004年06月10日(木) "Das Wunder von Bern"

映画"Das Wunder von Bern"観る。訳して「ベルンの奇跡」。1954年にスイスで開催されたサッカーワールドカップにて、西ドイツ代表が当時無敵であったハンガリーを相手に、奇跡の逆転優勝を遂げるまでの道程と、ソ連に12年間抑留されていた父親が帰ってきたある家庭の物語とが並行して語られる。経済復興を果たす前の、まだ敗戦の空気が生々しいドイツ。色あせた街並の中、手作りのサッカーボールを蹴って遊ぶのが子どもたちの何よりもの楽しみだ。

うまくいかないことばかりの中で、サッカーがどれほどの光を与えてくれたことか。ドイツチームが勝ち進むに従って、街の人びとが次第に興奮してゆく様がよい。思い詰めて教会へ話を聞いてもらいに行った父親に、司祭が「ところで準決勝のオーストリア戦は」などと話し始め「すみません、サッカーの話をしにきたんではないのですが」と言われるくだり、よくわかる。

決勝戦の日、街からは人が消える。会社も店も開店休業状態となり、教会では修道士たちがラジオにかじりつく。少年マチアスと、抑留時の体験から自分でも自分をコントロールできない父親との関係も、この決勝戦を境として、ゆっくりと変わってゆく。

サッカーの幸福がうまく描かれた映画と思う。それはともかく、こんな映画を観たら、改めて代表チームを応援しようという気にもなるもの。まるで関係ない自分でさえ、決勝戦前、スタジアムに国歌が流れる場面では胸が熱くなったくらいだ。今週末からのユーロ開催前に代表応援の気分を高めるための再上映としたら(昨秋に公開された映画なのだ)、その目論見は大当たりである。ただし、祝日の今日、映画館の中には自分も含めてお客は三人。大丈夫か、2004年度版ドイツ代表。


2004年06月09日(水) 岩のぼり

車で二十分ほど走ったところにある岩場まで、毎週のようにクライミングをしているという友人たちの見物へ行く。ドイツではロック・クライミング人口がとにかく多いらしい。快晴の日の夕方、岩場のあちこちにて、上半身ほとんど裸の人びとがよじ登っているのが見える。

はじめは見物だけのつもりだったが、誘われて挑戦することに。つかみやすそうな岩や安定した足場を探しながら進んでゆくうちに、あっという間に二十メートル。一瞬下を見てくらりとしたが、絶景だった。暮れてゆく丘の夕景。森の中をゆく小川。小さくなった友人たちが手を振っているのが見える。ただ前へ進むことだけに集中して、無心に身体を動かすのはいい。

それぞれ何度か登ったあと、皆して小川のほとりにある小さなビアガーデンへ。クライミング帰りのお客が多く、赤や青のぼんやりとした灯りの下、ひとつテーブルに集まっては、難しい岩場を登った人や、はじめて頂上まで辿り着いた人のために乾杯を繰り返す。今日もビアガーデンの駐車場は満員。夜は長い。


2004年06月08日(火) 夏のしあわせ

夜、友人たちとビアガーデンへ。夜といってもまだ明るい。日が沈むまでしばらくある。

ほとんど森の中といってよいようなビアガーデンは食べ物持込自由、滑り台やジャングルジムもあって、そこでは小さい子たちが走り回っている。何でもない話をしながら、だらだらと外でビールを飲むのはいつも幸せ。友人のひとりは、それほど広くないビアガーデンの中で何人もの職場の同僚にばったりと会っていた。今日のような晴天の宵には、皆、家の中で黙ってはいられないらしい。

ビアガーデンを出たあと、別の友人の家へ。テラスにてウォッカのりんごジュース割り。こんな遅くにも教会の鐘は鳴る。だんだんと星が見えてくる。帰りがけ、何人かで橋のほうまで歩きながら、星の数を数えた。少し生ぬるい初夏の宵の匂いがした。橋を渡って薄暗い路地の奥まで、どこまでも歩いていきたい気になったけれども、駐車場にて手を振って別れた。六月の夜。


2004年06月06日(日) イディッシュの唄

街の中に、かつてユダヤ人地区だった広場がある。16世紀半ばにユダヤ人が追放された後、シナゴーグを壊してその上に教会が建てられたのだが、夕方、側を通りかかると演奏会のポスターが貼られていた。イディッシュの歌の演奏会である。ちょうどあと30分で開演ということで、当日券を買い、聞くことに。

イディッシュ語とは、東欧においてユダヤ人が話していたドイツ語が、ヘブライ語やスラブ語の影響を受けつつ独自に発展していったもので、耳から聞く分にはドイツ語の少しきつい一方言といった響きだ。ユダヤの音楽では「ドナ・ドナ」がよく知られているけれども、ああいった哀感を帯びた調子の歌がつづく。ボーカルの女性が素晴らしい。ひとりハープを奏でながらの弾き語りなのだが、少しかすれた、それでいてどこまでも深く伸びてゆく声だ。

歌を歌うためには言葉が要る。イディッシュが特殊な言語であるだけに、そのことの意味について考えてしまう。

終演は9時すぎだったが、外はまだ明るい。夕映えの残る川岸を歩いて帰る。水量がいつもよりも多い。渦が巻いている。橋の上から流れの音がはっきりと聞こえる。音をたてて流れる川は怖い。




2004年06月05日(土) もうすぐ

ユーロ2004が近づいている。本屋にはサッカー本コーナーが出現。デパートでのくじ引き景品の一等賞はドイツ対オランダ戦のチケット(かなり欲しい)。チョコレートをウエハースで挟んだ「ハヌタ」というお菓子があるのだが、それにも、おまけとしてドイツ代表選手のシールが付いている。もともと好きでよく食べていたこの「ハヌタ」、「ビックリマン」のチョコレートを買いたがる少し前の小学生のようではないかと思いつつ、シールにひかれて今日は12個入りを購入。今回のドイツ代表については悲観的な見方が多いけれども、やはりお祭り気分には変わりない。開幕は6月12日。


2004年06月04日(金)

久しぶりの快晴の中、図書館にこもる。本読みは依然として進まず。夜はオルガンの演奏会があるという教会へ行ってみるか、映画館もいいかと思いつつ、結局まっすぐに帰宅。買い置きのビールを、いつもは一本のところ二本空けてしまう。肴は佃煮に焼海苔。

少しぐらりと来たとき、そのまま崩れ落ちないためにいつも読む本がある。聴く音楽がある。想う人がいる。トーベ・ヤンソンのムーミンシリーズの中のスナフキンのこともよく考える。ずっと前から変わらないことがひとつ、スナフキンのようで自分もありたい。物を持たず、とらわれず、こだわらず、ほんの少しの荷物と大事なハーモニカだけを手に、何処までも自分も行きたい。

焼海苔が口の中の上顎の部分に貼り付いて、はがそうとしながら、前に一緒にいた猫もまるで同じことをしていたと思い出す。ずいぶんと海苔の好きな猫だった。


2004年06月01日(火) 観覧車から

二週間にわたって川向こうで行われていたお祭りもまた、昨日で終わった。一度だけ友人とのぞいてみたのだが、そのときは、屋台をひやかし、焼魚を食べながらビールを飲み、観覧車に乗った。小さめの観覧車はスピードが速いだけでなく、何度もぐるぐると周る。途中から数えるのをやめてしまったが、少なくとも五周はしたはずだ。最後の一週は、てっぺんで数分静止するサービスもあり。

この街を、はじめて上のほうから一望した。大聖堂を囲むようにして、いくつもの塔が立ち並ぶ。川をゆっくりと船が行く。もうすぐここを離れなければならないのが嘘のようだ。もう、色づいた木々を見ることも、クリスマス市でグリューワインを飲むこともできないのだ。こんなに離れがたくなるとは思わなかった。

夕方、小雨。咲いたばかりの薔薇の花も濡れている。


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